その生贄姫は旦那さまとの約束を忠実に守る。

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その生贄姫は旦那さまとの約束を忠実に守る。

アルカナ王国第3王子テオドール・アルテミス・アルカナは、目の前で心底楽しそうに本を読む妻、リーリエ・アシュレイ・アルカナを見て盛大にため息を吐く。 「リーリエ、頼むからソレは何とかならないのか?」 「まぁ、旦那さま。何をおっしゃっているのです?何ともなりませんよ?」 文句のつけようもないほど完璧な淑女の微笑みを浮かべたリーリエは、 「ステラリア様のご活躍は私の喜び。いくら旦那さまのお願いでも、聞き入れられませんわ」 キッパリとテオドールに断りを入れる。 「こちらの小説は今社交界のご令嬢たちに大変高評価なのです。投資の価値もありますし、私としてもステラリア様を応援したい。何か問題ありまして?」 そう言ってステラリアが書いたと言うその小説をテオドールの前に差し出す。 テオドールのはとこにあたるステラリアとリーリエの交流は、夜会でリーリエがステラリアを助けて以降つつがなく続いているらしく、特にステラリアはリーリエの事を姉のように慕っているらしい。 「頑張る女の子は応援したいじゃないですか?特にステラリア様は社交界の華と称されるほど可愛く可憐で発言に影響力もある。私的にもう"推せる"要素しかないのですよ」 そして、ステラリアはリーリエの"推し"らしい。 リーリエに気に入られたステラリアの小説はリーリエからの絶大な支援を受け出版、宣伝され、社交界の子女から平民まで幅広い層に愛読されている。 それはいい。 問題はその内容だ。 「あのなぁ、リーリエ。その、内容なんだが」 「まぁ、旦那さま。読んでくださったのですか?素晴らしい妄想力もとい表現力で、私もステラリア様の感性の豊かさに感動いたしました」 ぱぁと顔を明るくして嬉しそうに手を叩くリーリエ。 「読めるかーー!!」 思わず大声でツッコミを入れてしまったテオドールに、解せないと眉根を寄せるリーリエ。 「なんで、騎士団内部で男達が愛憎劇繰り広げてるんだ!?どうしたらそうなる!?」 「いやぁ主人公を巡っての3角関係からの寝取られまでの一連の流れは表現が美しく、ニヤニヤが止まりませんね。普段ノーマルカプ推しの私でもライトな絡みと繊細な心理描写でページをめくる指が止まりません。続きが楽しみです」 物凄くいい笑顔でそう言い切るリーリエに、頭痛がするかのように頭を抱えるテオドール。 推しに対して絶大な支援と課金を趣味とする妻を止める手段は残念ながら存在しない。 それは理解しているが、それでもテオドールの心情としては『やめてほしい』の一言に尽きる。
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