その生贄姫は旦那さまとの約束を忠実に守る。

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「いいじゃありませんか。BLは今や確立された立派な人気ジャンルのひとつですよ?ステラリア様のおかげであっという間に浸透。腐女子人口の増加に伴い、2次創作とイベントの活発化で経済効果も期待値以上。来年の騎士団へのファンからの課金と言う名の寄付額も楽しみですね」 もちろん私も売上金で課金しますねと更に売上を伸ばす気満々のリーリエ。 「ステラリアになんて事を吹き込んでやがる」 テオドールがため息混じりに苦言を述べるも。 「私はただ"刺激が足らない"とおっしゃるステラリア様のお耳に、普段の騎士団のご活躍を囁いただけでございます。素質あるなーと思っておりましたが、沼にハマられたのはステラリア様ご自身の意思ですよ?」 何一つ強要してませんけど何か?と沼に沈めた本人は鉄壁の笑顔を崩さない。 まさに暖簾に腕押し状態。 「乙女の空想の1つや2つや3つくらい受け止めて差し上げたらいかがです?ゼノ様に至っては女性からのお声かけが増えたとむしろ喜んでらっしゃいましたよ?小説も嬉々として読まれてましたし」 第二騎士団副隊長のゼノ・クライアンも小説のモデルとして登場しており、女性達から『可愛い』『忠犬』『頑張って』と人気を博している。 そしてテオドールの耳にこの小説の存在を入れたのもゼノである。 「リーリエは自分の夫が、男と愛憎劇繰り広げていても構わないのか!?」 「フィクションですし、登場人物は全て架空の人でございますよ?別に主人公が旦那さまと明記されているわけでもありませんし」 「騎士団所属で、容姿が黒髪とか個人名に等しいだろうがっ!!」 この国においてテオドールのような黒髪、オッドアイはかなり珍しい。騎士団所属となればテオドール以外存在しない。 「小説のおかげで世間での"死神"の印象も随分変わったようで、肯定的な印象が増えたとか。メディアの影響力って凄まじいですね」 面白そうに小説を撫でながら、リーリエは静かに語る。 「小説ファンの皆さんだって、現実とは異なると理解した上で、一時の心の清涼剤として楽しまれているだけですよ?でも、ファンの皆さんの妄想力って凄いですよね。2次創作で随分際どいモノも出回ってますし」 「……何が言いたい?」 「いいえ、ただふと思ったのです。皆さまが主人公を旦那さまだと思っていたとして、新妻を放置し、屋敷に一切戻らず、職場に居続ける理由を一体どう考えているのかしら、と」 鈴の鳴るような柔らかな声音で語っているが、その翡翠色の瞳は一切笑っていなかった。
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