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「私と旦那さまは政略結婚ですし、私は隣国からの人質として送られた"生贄姫"として世間で認識されています。愛のない結婚生活。家庭に戻らない旦那さま。その旦那さまが好んで居続ける職場。そこにいるかもしれない愛すべき運命の相手などなど、小説の影響もあって様々な想像が掻き立てられてしまう、かもしれませんね?」
「……リーリエ、俺が本邸に戻ってない事を怒っているのか?」
確かに仕事が立て込んでいたせいでここ1〜2週間テオドールは本邸に顔すら出していない。
「まさか!私にそんな権利はございません」
やや大袈裟な口調でそれを否定したリーリエは頬に人差し指をあて、小首を傾げて言葉を紡ぐ。
「私は、ただ結婚した日の旦那さまとの約束を忠実に守っているだけでございます」
結婚当日にリーリエにテオドールが放った言葉。
『俺と馴れ合おうとするな』
『あとは好きにしろ』
お忘れじゃないですよね、とリーリエの目が語る。
「旦那さまに関わる事の許されていない私が、旦那さまの行動に口を挟むなどとんでもない。ましてや旦那さまの1人ブラック企業状態を改めろなどと苦言を呈すなど許されることではないでしょう。なので、"好きにした"だけですよ?」
そう、この妻はいつだってあの日の約束を拡大解釈しまくるのだ。
そして、テオドールにリーリエを止める術はない。
「ステラリア様の新刊、楽しみですね」
にこっと笑ったリーリエの翡翠色の瞳が語る。
新刊が出るかどうかはあなた次第ですよ、と。
その後、テオドールが全力で働き方改革に取組み、定時上がりを目指すようになったのはまた別のお話しである。
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