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「…きらいじゃ、ないかも」
気が付くとあたしはそう言っていた。
自分でもどうしてそんなふうに答えてしまったのかわからなかった。
そんなあたしに優しく微笑んで、村崎は言った。
「まゆか様が不満なのは、きっとその気持ちのせいです」
…え。
どういう意味?と訊こうとしたその時、村崎のケータイが鳴った。
イマドキ珍しい黒のガラケーは、プライベートのケータイではなく、仕事用のものだ。
掛けてくる人間といえば、ほんの一握りだ。
……もしかして、遼くん…?
村崎は戸惑うことなくケータイに出ると、あたしに背を向ける。
なんの話をしているのか全く聞こえない。
電話の向こうの人が話して、村崎はそれに返事をするといった感じだった。
電話はすぐに切れた。
村崎はケータイをポケットにしまうと、あたしの方を向いてこう言った。
「申し訳ありません、まゆか様。至急戻るようにとのご命令で…」
その言葉であたしの予感は確信に変わった。
さっきの電話は遼くんだ。命令なんて、あいつに決まってる。
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