わがまま王子と嘘つき姫

１、そもそもあいつは…

パパは彼を引き取ることも提案したようだが、彼の母親がそこまではお願いできないと断り、彼は執事と家政婦と一緒に暮らすようになったのだった。

村崎も家政婦のみどりさんも、彼を大切にしていたが、仕事である以上線引きはしないといけない。
ふたりには本当の家族がいて、住み込みといっても交替でお休みするし、いつでも一緒というわけにはいかない。

彼はたぶん寂しかったのだと思う。
あたしだったら、あんなに幼い時に親と離れて暮らすなんて絶対無理だった。

母親に手を上げられてどんなに悲しかっただろう、怖かっただろう。
きっと彼はみんなに愛されたくて、けれどみんなの愛情を信じられなくて、わがままばかり言っていたのだと思う。

パパもママも、そんな彼の事情を知っていたから、あたしがいじわるされても彼を叱ることはなかったし、あたしに「許してあげて」と言い聞かせていたのだ。

歪んだ愛情表現しか知らない彼に、正しいことは正しいと言い、間違っていることは間違っていると対等に言える相手が必要だった。
あたしは、彼にとってそんな対等な”ともだち”になりたいと思った。