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おまつりの格好をするなんて、もしかすると初めてかもしれない。
すれ違う人たちと同じような服装をした僕とヒロトを見て、もうそれだけでワクワクしてきてしまった。
『お兄ちゃん、あそこ行きたい!』
ヒロトが僕の手を引いてメモ帳を見せてきた。
「りんご飴? いいよ、行こうか」
『ありがとう!』
弟はあらかじめ用意してあった文字を見せて笑った。
弟が歩く度にシャラシャラと鈴の音が鳴る。僕が作った笛をちゃんと持ってきてくれたようで、たまらなく嬉しくなってニヤニヤとしてしまう。たまに笛の方を見ては少し嬉しそうに顔が明るくなるので、それも愛おしくて仕方がなかった。
「おじさん、りんご飴ください!」
「あいよ! そっちの僕はいくつ欲しい?」
ハチマキを頭に巻いたおじさんが屈んでヒロトに問う。ヒロトは元気よく人差し指を立てて数を示した。
「ひとつな! ちょっと待っててな」
僕がお金を渡すと、おじさんはりんご飴を僕たちに渡してくれる。自分の言いたいことが伝わって嬉しかったのか、ヒロトはこちらを見上げてふふんと誇らしげにしたり顔をした。
お祭りの時は、賑やかな人達ばかりで町は溢れている。だから、ヒロトが口を開かなくても変に探りを入れてくる人もいない。
おかげでヒロトも楽しめているし、僕としても幸せなことだった。
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