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「ヒロト、りんご飴おいしい?」
聞けば、弟はこくこくと頷いた。
「よかった。でもちょっと食べにくいな……」
ぼやくと、ヒロトも同じように口元に仄かに赤い欠片をつけながら、同意するように頷いた。
「歩きながらだと危ないし、そこ座ろう」
繋いだ右手は離さずに、弟と二人でベンチに座った。
もぐもぐとりんご飴を食べていく弟は、完全に会話を忘れていた。愛用のメモ帳とペンは巾着の中だ。いつもはすぐに書ける位置にあるのに、今は視界にすら入らないところへしまってある。
代わりに、弟の膝の上にあるのは、僕が発明した『ちょっとだけ音のいい笛』だ。それを使おうとしてくれているのだろうか。そうだといいな、なんて思いながら、既に食べ終わりそうな勢いの弟に負けないように赤い飴を齧った。
『お兄ちゃん、あれなに?』
がり、と飴を砕いた時、突然視界にメモ帳が映り込んだ。
「あれ? あのぬいぐるみとか玩具とかいっぱい並んでるやつ?」
ヒロトは首を縦に振った。
「あれはね、射的って言って、銃でバーンって景品を狙って撃つの。あそこに並んでるのを撃ち落とせたら、景品が貰えるんだよ」
『じゅうのれんしゅうかと思った』
「あはは、日本は銃持っちゃいけないからね。それはちょっと難しいかなぁ」
『みんなれんしゅうして、外国とか行くのかなって。じゅうをうつ兵たいさんみたいなのに、なりたいのかなって』
「なるほどね。外国だったらそれもあったかもしれない。でも、日本じゃそれはないから、ああやって玩具の銃を撃つだけだね」
『お兄ちゃんは、あれやったことあるの?』
「あるよ。もしかしてやりたい?」
尋ねると、ヒロトはじっと射的の屋台を見つめた。大きなふたつの瞳が、射的用の銃を持って必死に景品を狙う子どもたちを映し出していた。
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