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涙が一つ零れた時、「ピー――ッ!!」と甲高い音が、花火の音に混じって聞こえた。学校の体育の授業で先生が吹いているあの笛によく似た音だった。あれよりも、もっと遠くまで響く、深い音。
ハッと顔をあげる。
もう一度、甲高い笛の音が祭り会場に響き渡った。いろいろな音で溢れる祭り会場で、その音は周りの人が気に留めるようなものではなかったかもしれない。屋台で売ってる玩具の笛の音とさえ思えるだろう。
だけど、この音の正体は僕が一番よく知っている。
何度か鳴り響くそのホイッスルの音の方へと走る。何度か人にぶつかって謝りながら、僕は人混みの向こうに手を伸ばした。
――シャラン、と鈴の音が鳴った。
「ヒロト……!」
掴んだ手は細く、僕と目が合ったその瞳はまあるい。笛をくわえた弟は、心底驚いたように目を見開いて僕を見つめていた。
「ごめん、ごめんね……置いていったりなんかして」
小さなその体を抱きしめれば、身じろぎが返ってくる。きっと困らせているだろうと思いながらもそのままにしていれば、汗だくの頭を撫でる小さな手。そして手を引かれて、店の通りから外れた木陰へと連れて行かれる。
『すごいよ、お兄ちゃん』
シャラシャラと鈴を鳴らしながら筆を走らせた弟は、走り書きのメモを興奮気味に見せてきた。
『これならしたら、本当にお兄ちゃんがきた。こんなに人がいっぱいいたのに』
「……ヒロト」
『にぎやかだったのに、このふえの音、すごい遠くまでとどいたんだね。お兄ちゃんが作ったふえ、すごい!』
あまりに真っ直ぐそう褒めるものだから、僕は胸がいっぱいになった。嬉しくてニヤニヤしちゃいそうなのに、どうしてか涙がポロポロと零れる。
慌てたようにわたわたと手を動かす弟を前に、僕は乱暴に涙を拭った。
「……すごいでしょ、その笛」
だって、僕が発明したんだもん。
そう言ってやれば、弟はにっこりと嬉しそうに笑顔を浮かべた。
こんな気持ち、初めてだった。発明をするのは楽しんでいたけれど、ここまで役に立ったことはなくて、そのうえ、作って良かったと心から思えた。まだ実感が湧かないし、ちょっとばかりふわふわした変な気持ちだけれど、発明が好きで良かった。
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