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夢探しとホイッスル
僕には、話せない弟がいる。
三つ年下で、小説を読むことが大好きな弟だ。工作好きの僕とは違って、なんでもかんでも物を解体したりくっつけたりしてお母さんを困らせたりしない、しっかり者だった。
今だって、百円ショップで買った白色のホイッスルを弄り回している僕の後ろで、静かに本を読んでいる。今日は何を読んでいるのかとじっと見ていれば、弟のヒロトと目が合った。
「あ、ごめん。邪魔しちゃったかも」
僕が謝ると、返事の代わりにぱちぱちと二回瞬きが返ってくる。ヒロトはそのまま視線を手元に向けると、メモ帳と鉛筆を手に取った。
けして無視をしているわけではないから、僕は弟がそのメモ帳に文字を綴り終えるのをゆっくりと待つ。
『だいじょうぶ。お兄ちゃん、どうかした?』
ヒロトがメモ帳を僕に見せてきた。少し踊った幼い字がヒロトの言葉をそこに表現していた。
「何読んでるのかなって気になってさ」
素直に言えば、弟はまた目をぱちくりとさせる。そして鉛筆でゆっくり文字を書いていく。
弟は声を出すことができない。原因はお医者さんでも分からないみたいだった。
だから、誰かとコミュニケーションをとる時は、弟はメモ帳に伝えたいことを書く。まだ漢字もたくさん覚えているわけじゃないのに、できる限り読みやすいようにと覚えたての漢字を使ってくれることも多かった。
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