軍師の嫁取り 4~戦の前に出合いあり~

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「もうー、張飛ってやつは、手に終えないんですよー!酒の勢いで、暴れるし、負けが続くと、怒って、火を放とうとするんですから!賭場を何だと思ってるんでしょう?!」 童子は、ここぞとばかりに、うっぷんをぶちまける。 「うん、童子よ、詳細は、分かった。しかし、賭場は、お前の父上のもの。お前が、そこまで、怒ることもないだろう?」 「まあ、旦那様ったら。童子の家の大事じゃないですか?火を放つなんて、それは、犯罪ですよ」 童子を諭す孔明に、月英が、妻らしく、口添えをする。 しかし。 もっともらしく語っているが、と、均は、思う。 賭場も、放火も、どちらも、ご法度。張飛とやらが、すっかり悪者になっているけれど、どっちもどっちではないのか? 「いや、驚きましたなあ。童子にそのような事情があったとは」 「ええ、何でも、しっかり学を身に付けさせたいとかで、うちの父が、賭場で大負けした時に、あちらの父上様に、負けと、この子を引き換えに、引き取らされたというか。まあ、色々ありましてね」 へえー、童子は、学びたいのか。と、孔明は、感心しているが、またまた、均は、思う。 賭場での負けと引き換えって、そりゃ、いったい、どうゆう仕組だと。 「とにかくです!旦那様、張飛という、ゴロツキには、注意してください!」 「だがなぁー、童子、もう、やりあってしまったのだ、どうすればいいだろう?」 えーーー!!! 父ちゃんに、声かけますっ!街の若い衆を集めますっ!!! 童子は、今にも、飛び出して行きそうな勢いを見せた。 「まあ、童子や、お待ちなさいっ。やりあったって、言っても、言い争い、それも、棗をどうしたとからしいし」 えー、でも!と、童子は譲らない。 「向こうには、関羽という兄貴分も、いるんですよ!」 なんでも、張飛が、暴れたら、連れ帰える事で賭場に現れるらしいが、義が通らぬやら訳のわからない事を言い出して、結局、二人して暴れるのだとか。 「で、また、関羽は、めっぽう強いんです。何せ、シラフ、ですから。張飛も、強いのですが、酒を飲んでますから、火を放とうとしたり、おかしなことばかりするんですよー!」 ほお、そりゃあ、たいへんだなあ。しかし……。 と、言ったきり、孔明は、考え込んだ。 「では、仕えていた方は?そして、なぜ、先生のお宅に客人として現れたのだろう?」 「あらまあ、なんだか、ただ事ではない話ですね。童子や、食材に、菓子に、酒に、たんと、仕込んでおきなさい」 え?! と、一同、驚いた。 なぜ、荒くれ者の話から、大がかりな宴でも開くかのような話になったのだろう。 「……その賭場荒らしは、劉備様の……そして、たしか……」 「はい、奥様、ここの(おさ)様の所へ、客将として、滞在されてます」 「だから、暇をもて余しているのね。まったく、劉表(りゅうひょう)様にも困ったものだわ。なんでもかんでも、ホイホイ受け入れちゃうんだから。叔母上にお話した方が良いかしら?」 月英は、つと、首をかしげて、考える。例のごとく、そのなまめかしさに、孔明は、当然当てられており、均も、不味いとばかりに、義姉(あね)から、目をそらした。 が、そうだ。 義姉(あね)の、父、黄承彦(こうしょうげん)の妻、つまり、月英の母親の妹は、劉備達を受け入れている、(おさ)の劉表の後妻に入っている。 つまり、月英と、この土地の長は、義理ではあるが、叔父と姪。 叔母上に、と、言うのは、そうゆうことなのだ。 名士と呼ばれる者は、商いだけではない。こうして、有力者とも、血縁関係を結び、力を付けていく。 「あの、義姉上(あねうえ)様?差し出がましいようですが、ならば、兄の仕官の口添えを……」 「まあ、均様。それは、旦那様が、決めること。それに、劉表様に仕えるだけが、道ではありませんもの、ですよね?旦那様?」 「ああ。私は、どうも……あの方は……」 ゴニョゴニョと、言い訳している兄に、気が進まないのか、と、均は理解したが、黄家と縁組した事で、兄は、すでに、長と、義理ではあるが、繋がりがあり、名士の端くれになっている。 ならば、これから、いくらでも……。 と、いう均の思いを読んでか、月英が、一言。 「そうそう、もっと、旦那様に、相応しい、いえ、仕込みがいのあるお方が、現れますよ。それは、おそらく近いはず。だから、童子、急いで、食材を用意しておいて」 月英は、再度、童子に、言いつけた。
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