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 部屋に閉じこもり、無限に生じる外からの圧力をやわらげる方法を探し出し、安寧を得られる。  紛れもない幸運だ。  依然誰かがついてきているような――いうなれば気配や視線のようなものは、芝田の背を追ってきている。  乗りこんだ車両のなか、気づいていない体を装うことはやめた。  芝田は身体の向きを変え、該当するものがいないか探す。ほどよく埋まった座席のなか、芝田のほうを向いているものはいない。  だがこちらをうかがう気配がある。そんな気がする。  息をついた視界、次の停車駅に入った景色が車窓にあった。そこにビジネスホテルの看板があり、芝田は電車を降りた。  気配はついてこなかった。
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