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芝田が中学生だったころ、そのMから連絡が入った。
当然Mの正確な住所さえ知らず、当人から突然連絡があったと思うや急に頼られ、両親はひどく驚いていた。
そちらの地方に親類がいるらしい、と芝田の両親は知識として知っていたが、名もろくに知らなかったようだ。
夏休みだった。
家族旅行の体で先方に向かったことを覚えている。
対面したMは、目を逸らしたくなるほど衰えた老人だった。
彼の住まいにほど近い場所に、M家代々の墓があった。
それをべつの墓所に移す算段を相談された。
その席に芝田はいた。
父が弱り果て、母がいやそうな顔を隠さない席だった。芝田は老人から目を逸らし、聞くともなしに耳をかたむけていた。
彼の手元には十分な資金があるようだった。
芝田の両親の手を借りずとも済むていどは確保されていたらしい。
業者を頼れば、Mが要求することはすべて自分で執りおこなうことができそうだった。
だが老いと死期を盾にされ、無下にもできなくなった両親はMの頼みを断るに断れなくなっていった。
引けなくなってからの母の顔を見ていられなくて、芝田をそこで中座して散歩に出かけていた。
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