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もう家族旅行どころではなくなっていた。
帰宅した両親の言は、「動けるうちにいっそ引っ越せばよかったのに」というものだった。
だがそれも「なにか事情があったのかもしれないね」というものに徐々に変わっていくのを芝田は聞いていた。
両親は元々気のいい性分だった。さほど時間を置かず、できるだけのことは手伝おう、という結論に至っていた。
血縁をたどってみると、M家は他人といっていいくらい遠い間柄だった。
ほかに親類縁者はなく、M老人は芝田の両親を頼るしかなかったのだろう。
彼の要望――先祖も引っくるめ、自分の死後に墓を他所に移してほしい。
彼はしきりに詫び、死んだあとくらいここを出ていきたい、とこぼしていたそうだ。
礼金に当たる金銭も用意されていて、しかし芝田の両親は交通費ていどしか受け取っていなかった。
話が詰まっていくに連れ、両親はM老人に同情するようになっていたのだ。
老いてから住まいを移すのは大変だろう、もし土地に愛着があったのならなおさらだ――両親のその意見と違い、内心芝田は首をかしげていた。
――死んでから離れたい土地とは、いったいなんだろう。
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