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老人は一度は現地の墓に入るという。
それが先祖への義理立てであるといい、それからの移転を希望していたのだ。
芝田はさておき、両親は先方に出向いて、何度か打ち合わせもしていたはずだ。
M老人の――彼の先祖の墓は、無事都内の某所に移されている。
誰も墓参りするものはない。
すでに芝田の両親は亡く、芝田以外に墓の存在を知るものは残っていないはずだった。そして芝田といえば、故人にもその墓にも興味はない。
――あそこは廃村になったのか。
意外でもなんでもない。
へえ、と鼻を鳴らし、芝田は写真を次々と表示していく。
現れた風景に、液晶画面を滑っていた指が止まった。
芝田がその土地を訪れたのは一度きりだ。
両親に声をかけられても、二度とその土地を訪れなかった理由が現れていた。
煤けた色味になっている鳥居が映し出され、その先はぼうぼうの草むらだ。
背の高い雑草に隠れるようにした社殿が、はっきりと鎮座している。
昔そこを訪れたとき、芝田は神さまに出会っている。
醜いそれと、それの背後に隠れるようにしていた少女の姿を思い出す。
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