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 もしかすると追い立てられるように歩いていたのではなく、そうと気づかないうちに呼ばれて歩いていたのかもしれない。  ――呼ばれた。  ――たとえば、あの神さまに。  閉じたまぶたの闇、あの神さまが近づいてくる姿が見えた気がした。  それを裏づけるように、気配は近づいている。  大樹の周囲をそれはまわりはじめていた。  日陰に入ったとき、日差しをさえぎる安全な場所に入ったとさえ思った。  それが安全でもなんでもない。  芝田はなにものにも守られていない。  気配に耳をそばだてるようにする時間は、芝田にとってつらいものでしかなかった。  ――怖い。  とても怖い。  もう見たくなかった。  だがこのままではいられない。  意を決して目を上げた芝田は、白々と灼けた境内のただなかにいた。  視界のはしで動く姿をとらえる。  醜い神さまだ。  それはこのさびれた神社に入ったときから、芝田のほうに徐々に近づいてきていた。  いびつで、淀み、どことなく未練がましい。  だが、神さまだった。  持っていかれたくない。  もし持っていかれるとしたら、なにを持っていかれるだろう。 「にげて」
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