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声がして、芝田は顔を上げた。
呼吸が止まる。
至近距離に醜い顔があった。
それが顔として機能したのは、どのくらい昔のことだろう。そもそも顔などいらなかった、できそこないなのか。
目鼻立ちなどない。
潰れた泥団子のようなそれは、それでも確かにその神さまの顔だった。
縊死体のようにのびた首があり、幼児の下手な落書きのようないびつな手足がある。なにも身に着けていないが、神さまが男性なのか女性なのか、それさえもわからない。
ずるり、とそれが動き、芝田は目を逸らした。
「はやく、にげて」
声はそちらから聞こえていた。
芝田は眼球だけを動かす。
赤茶けた神さまの身体に隠れるようにして、中学生の芝田と同世代くらいの痩せた少女が立っている。
顔立ちの整った少女だ。泣きぼくろがあり、しかしそれ以上のことを確認することもできない。
芝田はすぐ目を伏せ、神さまを視界から追い出した。神さまを長く見ているのは恐ろしかった。
「にげて」
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