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まだおさなさのある少女の声が重なり、芝田は返事をしそうになった。応でも否でもなく、放って置いてほしいと叫びそうになる。だが芝田の舌はうまく動かなかった。ほそい音を立てて息を吐いただけだ。
「にげて」
急に芝田は、声のいうとおりだと悟った。
ここにいないほうがいい。
さっさと逃げてしまったほうがいい。
決意し覚悟をかためて顔を上げると、先ほどより近い場所に神さまの顔がある。
ひ、と短くちいさな悲鳴が出た。
その音を確かめようとでもいうのか、醜い神さまは芝田に顔を近づけてきた。
目と鼻の先にある醜怪なそれが、ぐずぐずとなにかを嗅ごうと動く。
顔を背けた芝田の意気地は、すっかりくじけていた。逃げ出すつもりになっているのに、足に力が入らなくなっている。
「はやく」
うつむいた頭に急かす声がかかり、焦りがつのった。
うるさいと声を荒げそうになってしまう。
ひざが笑い、ひたいから流れ落ちた汗が地面に落ちるのを芝田は目にしていた。
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ほかの人々の目には、それらは映ることがない。
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