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 顧客には金持ちが多かった。金持ちでなくとも、残滓のおぞましさに胸をときめかせ、大枚をつぎこむことに迷いのないものたちだった。  彼らは撮影現場には同行しない――させない。  撮影した場所の情報を、芝田は与えない。  汚泥は現れ、消える。  それが定住するおぞましい場所は、すでに人間から自然と忌避されている。もちろん芝田も例外ではなく、避けて行動するようにしていた。  顧客たちは自分の部屋や静かな喫茶室などで写真と向き合い、様々な想像を巡らせるそうだ。  そこがどこなのか、なにがあったのか、いまそこを歩くものたちになにか影響はあるのか。  写真に写ったものから、ときには場所が特定できるという。  そのときの喜びはひとしおらしい。  彼らはそんなふうに一枚の写真を愉しむ。  過去の惨劇や、汚泥の由来。  それらは彼らにとってこの上ない愉快な思索のようだ。  みな芝田自身に興味を持たなかった。  芝田は自分は写真家の先生の手伝いをしているものだ、と話している。 「先生は感覚を研ぎ澄ますために、ひととの接触を避けていらっしゃいます。ですので人前には出ようとなさらないのです」
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