12人が本棚に入れています
本棚に追加
顧客には金持ちが多かった。金持ちでなくとも、残滓のおぞましさに胸をときめかせ、大枚をつぎこむことに迷いのないものたちだった。
彼らは撮影現場には同行しない――させない。
撮影した場所の情報を、芝田は与えない。
汚泥は現れ、消える。
それが定住するおぞましい場所は、すでに人間から自然と忌避されている。もちろん芝田も例外ではなく、避けて行動するようにしていた。
顧客たちは自分の部屋や静かな喫茶室などで写真と向き合い、様々な想像を巡らせるそうだ。
そこがどこなのか、なにがあったのか、いまそこを歩くものたちになにか影響はあるのか。
写真に写ったものから、ときには場所が特定できるという。
そのときの喜びはひとしおらしい。
彼らはそんなふうに一枚の写真を愉しむ。
過去の惨劇や、汚泥の由来。
それらは彼らにとってこの上ない愉快な思索のようだ。
みな芝田自身に興味を持たなかった。
芝田は自分は写真家の先生の手伝いをしているものだ、と話している。
「先生は感覚を研ぎ澄ますために、ひととの接触を避けていらっしゃいます。ですので人前には出ようとなさらないのです」
最初のコメントを投稿しよう!