診療部門特別相談室にて

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鈴木は立ち上がり拳を握りしめた。反抗を企てる青二才が許せないのは当然のことだ。 だが鈴木はそれ以上、言葉を続けられなかった。なぜなら杉山の主張も一理あるからだ。西成が割って入る。 「鈴木先生、たしかに身なりの規定は難しい問題です。昨今では、多様性(ダイバーシティ)は尊重されるべきだとする考えが色濃くなっていますからね。型にはめることのほうが非難的に見られる時代です」 「だけど西成先生、ここは病院という、命のやり取りをする現場ですよ。はたから見た印象、そう、受容性(アクセプタビリティ)ってものを考えてもらわないと」 鈴木はとっさに反論した。いずれも間違いではない。だが、どちらのほうが正しいのかと言えば、そこに答えはない。 西成は杉山にそっと尋ねる。 「杉山先生、多様性を認めるとは、どういうことかわかりますか」 杉山はやはり視線を合わせず、何も答えなかった。西成は同じ口調で続ける。 「規定があれば、身だしなみがそぐわない者へのクレームは監督者の責任に置き換えることで当事者を守ってあげられます。けれど多様性を認めるということは、本人がすべての責任を負わなければならなくなるんです」 西成の説明を聞いた鈴木はフンと鼻息を漏らした。 だが、杉山はけっして動じる様子を見せない。反応の薄さに鈴木がさらに苛立つ。 「西成先生、私はこの後、診療の予定がありますので、これ以上、敗戦処理に時間を取られたくありませんよ」 「鈴木先生、つまりこの件については私に任せてくださるということでよろしいのですね」 「ああ、心底こちらからお願いしたいくらいです」 杉山への嫌味も含まれていたが、鈴木の気持ちは分からないでもない。このまま議論を続けても平行線を辿るだけだ。 「それでは、私の方で善処させていただきます」 西成は自ら頭を下げ、早足で部屋を去る鈴木を見送った。 ただ、当事者の杉山はそんなふたりのやり取りを黙って見ているだけだった。
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