いつか、月あかりの下で

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「どこか行ってみたいとこ、ない?」  沈黙を破ったのは祥太朗さんの方だった。  どこか? どこかって、どこ?  関東に馴染みのない私は首をひねるばかり。  東京タワー、スカイツリー、お台場、渋谷、新宿、浅草、上野?  う~んと悩んでいたら。 「海とか山とか、ちょっと遠出もできるよ、まだ朝だし」  車の時計は朝の九時だ。   「海、って遠いですか?」 「そうでもないよ。あ、横浜、行ったことあったっけ?」 「いえ、まだないです」 「じゃ、横浜でいっか。海見て、中華食べて、それっぽい写真撮ってブラつく?」 「はい!!」  祥太朗さんの提案してくれるものなら、きっと楽しいだろう。  海なし県に住んでいたから、ワクワクしてしまう。  横浜ってなんだか響きだけでお洒落な気がする。  まだ見ぬ横浜に想像を働かせていたら。  顔に出てしまったのだろう私を見て、祥太朗さんが苦笑いをする。 「言っておくけど、俺まだ風花のこと怒ってるからね?」 「ええっ!?」 「怒ってるけど、せっかく二人の時間ももらったしさ」  運転席から伸びてきた手が私の頭に触れて、優しく撫でてくれる。 「さっきの」 「はい?」 「公開プロポーズ、一回忘れて」  あ、そういえば……。  忘れての意味を否定されたみたいに捉えてしまって、小さく頷いたら。 「そんなんじゃないから!! 結婚したくないとかじゃなくって! ちゃんといつかあらためてプロポーズする! まだ指輪も用意してないし、それに風花にプロポーズする時は満月の夜にって決めてるし」 「え?」 「……、あ」  余計なことまで言ってしまったと項垂れた祥太朗さんに嬉しさがこみあげる。 「だから、……、勝手にいなくならないこと。泣きたい時は、俺のところに来ること。あとは、風花が楽しく笑っててくれていればそれでいいから」    前を向いたまま、独り言のようにつぶやく祥太朗さんに。 「……祥太朗さんの側にいたら、嬉し泣きしかできないかもです」 「待って! 嬉しかったら笑ってよね」  目尻に溜まった涙を拭って笑う私の隣。  赤信号で止まった一瞬の合間に超スピードでキスをした祥太朗さんが嬉しそうに笑い返してくれる。  いつか月あかりの下で、その温かい手を取るその日まで。  ずっとずっと側でその優しさに触れさせて。  青信号に変わる手前で、愛しいあなたの横顔に初めて自分からキスをした。 ――今宵、月あかりの下で―― end *** 最後までお読み下さりありがとうございました。 スター特典は落ち着いた後、今後も新作をお出しする予定です。 本編で書ききれなかったこぼれ話を書いていきたいと思いますので、 本棚はこのままにしていただけたら、お報せが飛ぶかと思います。 長い間応援していただき、本当にありがとうございました。 2023/1月 東里胡 abf1598c-1fc8-4472-b185-21d6d8174b39 https://estar.jp/users/73749722 佐々森りろ様からの完結祝のファンアートをいただきました! 別バージョンもあります そちらは早速スタ特のGIFTに置かせていただきます~!! ありがとうございました!
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