プロローグ

2/2
前へ
/202ページ
次へ
 あの日の月は、青白く、冷たい横顔をしていた。  手を伸ばしても届くことのない、あの人ようだなと思った。    信じてる、信じられない、信じたい、信じさせて。    迷う心が叫び出さないように、ずっと唇を噛み(こら)えていた。  それなのに――。  突然降り注いだアルコールの飛沫や、空き缶が当たったおでこが痛かったせいじゃない。 「大丈夫ですか!?」  かけられた声と差し伸べられた手が、沁みたせいだ。  とうに限界を迎えたダムのように、(せき)を切った涙は、止め処なく溢れて、夜の公園に私の泣き声が響き渡った。
/202ページ

最初のコメントを投稿しよう!

195人が本棚に入れています
本棚に追加