いつか、月あかりの下で

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「風花、本当なの?」  慌てている私の様子に叔母さんは疑問を抱いているようだ。   「本当です。ね、風花?」  私の肩を強く抱き、同意するようにと祥太朗さんの目が物語っている。  大丈夫、絶対なんとかするから、と少しだけ微笑んでくれてる気がしたから。  だから私もうなずいてみせた。 「俺が、いえ、ここにいる全員が今、風花のこと家族だと思っています。叔母さんのように、血の繋がりはないけれど、お互いのことを皆大事に思っています。誰かが困っていたら助け合う、そんな関係です。決して、風花一人に面倒事を押し付けるような関係じゃないので安心して下さい」 「っ、なっ」  ニッコリと笑ってそう言い切った祥太朗さんに叔母さんは、真っ赤になって言葉に詰まる。 「誰よりも大事にします。風花の笑顔を守っていくので、俺たちの結婚を許してくださいませんか?」  大きな声でペコリと頭を下げた祥太朗さん。  響いたその声に通りすがりの人たちがパチパチパチと拍手をくれたり、「おめでとう、幸せになれよ」なんて声をかけてくれている。   「私たち全員、風花ちゃんが大好きなんです。だから連れて行かないで下さい」  桃ちゃんが泣きながら叔母さんに詰め寄る。 「大丈夫よ、桃ちゃん。叔母さんは、風花ちゃんのこと本当の娘のように思ってるのよ? 娘の幸せを願わない親がどこにいるっていうの?」  美咲さんの言葉に、叔母さんは目を見開く。 「というわけで、叔母さん、今日まで風花さんのこと見守って下さり本当にありがとうございました。気を付けて長野に帰ってくださいね」  勇気さんがニッと笑った。 「あ、ちょっと待って下さいね」  洸太朗くんが美咲さんに耳打ちされてみどりの券売機に走る。 「お土産にはならないかもですが、どうぞ。俺たちからの餞別です。というか、後八分ほどで出発するんで、早くホームに走った方がいいですよ」  洸太朗くんが叔母さんの手に新幹線のチケットを握らせている。 「じゃあ、俺からはこれを、気を付けてお帰り下さい」  すぐ側の自動販売機で買った珈琲を叔母さんに押し付けるマスター。  全員の顔を見まわして、最後に私をギロリと睨んで、チッと舌打ちをした叔母さんは。 「許さないからね、風花」 「叔母さん……、ごめんなさい。私は、ここに……、皆と一緒にいたいから行けません。もう一緒には暮らせません」 「風花っ!! あんたって子は」  私に近づいてきて、勢いよく高く挙げた手に叩かれるだろうと目をつぶったのに、一向に当らない。  ゆっくり目を開いたら、叔母さんの手は勇気さんに掴まれていた。 「叔母さん、こういうの暴力行為になりますよ? 警察呼びましょうか? 全員証明できるので、言動には気を付けて~!」 「うるさいっ!」 「というか、マジで時間やばくない? あと三分、ほらほら走った方がいいですよ」  勇気さんに手を離された叔母さんが舌打ちをしながら、小走りに改札をくぐっていく。  振り返ることなくエスカレーターに吸い込まれていく背中が見えなくなってから。  力が抜けて床にへたり込みそうになるのを、祥太朗さんに支えられ、皆にもみくちゃにされて、泣き笑いをした。
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