いつか、月あかりの下で

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「いやあ、かっこよかったわ、祥太朗のプロポーズ」  帰りの車の中、勇気さんのからかう声に祥太朗さんは顔を真っ赤にしている。 「見直したわ、祥太朗。結婚式いつにする?」  美咲さんにまでからかわれ、祥太朗さんは眉間にしわを寄せてバックミラー越しに皆を睨んでいる。 「ま、帰ったらゆっくり話そうね、風花ちゃん。たーっぷりお説教だからね、何の相談もなく長野に帰ろうとしたことについてと毎回水くさい件について」 「は、はい! いってらっしゃい、美咲さん!」 「はーい、いってきまーす!」  美咲さんの会社の最寄り駅。  バイバイと手をふる美咲さんを降ろしたあとは。 「今日休みたかった~! 風花ちゃんが心配だから休みたかった!」 「風花さんのことを理由にして、ただ休みたいだけじゃん、桃は!」 「二人ともいってらっしゃい、気を付けてね」  じゃあね、と学校の近くで桃ちゃんと洸太朗くんが降りる。 「あ、祥太朗、あのビルの前で止めてくれる? 今日打ち合わせなんだわ。帰り遅くなるから俺の分の夕飯は大丈夫だからね、風ちゃん!」 「勇気さん、いってらっしゃい、お仕事がんばってください!」 「うっす!」  慌ただしく勇気さんがギターを背負い、車を降りて駆け出していく。 「祥太朗は? 今日は仕事休み?」 「うん、家族の一大事で。夕べの内に有給申請完了」 「抜かりないな、さすが祥太朗。俺が連絡した直後にグループメッセージ動かしたもんな。つうか、お前の有給は大体家族のためにあるよな」 「いいだろ、別に」 「いいんじゃない? あ、俺のこと次の駅で降ろしてよ」 「なんでだよ、どうせ家に帰る途中なんだし」  はああっとマスターの大きなため息が聞こえる。 「今日は風花さんもお店休みだし、せっかくだから二人で出掛ければ?」 「え? あ、あの、予定なくなったので仕事に行こうかと」 「昨日休ませてくれって言ったの風花さんだよ? 今更やっぱり出ますは困ります」  言葉に詰まった私にマスターが笑う。 「じゃあ、また明日ね! いってらっしゃい、二人とも」  いってらっしゃいと見送ってきたはずなのに、マスターから言われてしまった。 「いってきます」  助手席から手を振ったら、マスターが笑ってる。  その姿が小さくなって見えなくなってから、祥太朗さんと二人きりの空間にあらためて緊張してる。  ふと覗き見た横顔なのに、視線で気付かれたようで、いつもは優しいはずの目が全然笑っておらず、鋭くこちらを見ていた。 「いつもそうだけど」 「はい?」 「風花は、人に甘いし、弱い。押しに弱すぎるし」  図星をつかれた私は情けなく苦笑いをした。  静まり返った車内の空気が重い……。
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