1 幼なじみ四人組

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1 幼なじみ四人組

 揺蕩う中、熱を感じていた。顔にかかる眩い熱。  それが日光であると、どこかで理解をしつつ。けれど、顔を背けて、意識の底に潜り込むように拒絶した。 「遥斗……オイ、起きろ、遥斗…………鈴川遥斗(すずかわはると)!」  ガン! という衝撃で目が覚める。薄く開けた目に、見下ろす呆れ顔が入り込んで、床に頭から落ちた状態で「おはよう」を返した。  ゆっくりと体を起こし、大きなあくび。  カーテンは全開で、あの眩い太陽光はそういうことかと、ぼんやりしたまま納得する。 「ったく、何がおはようだ。いい加減、きちんと自分で起きろよな」  眼鏡をくいと上げながら、幼なじみの井長修吾(いちょうしゅうご)はため息をついた。 「ほら、さっさと着替えて朝飯食えよ。二人とも、外で待ってるんだからな」 「あー、先に行ってていいぞー……」 「また寝ようとするな馬鹿!」  修吾に小突かれて、しぶしぶ起き上がる。窓を開けて、外にいる二人に軽く手を振り、クローゼットから制服を取り出した。  修吾が監視する中、顔を洗って歯を磨いて。身支度を整え、修吾が用意してくれたパンを咥える。この頃には、何とか眠気も飛んでいた。体の動きが滑らかになり、スピードも上がる。  急かされる中、靴を履いて、玄関の扉を開けた。 「おはよう、遥斗君」 「もう、この寝坊助は! 声かけないといつまでも寝てるんだから!」  女子二人が、対照的な顔で迎えてくれた。  にこにこと笑っているのが、瀬口由希陽(せぐちゆきひ)。のほほんとしながら、背中まで伸びた長い髪を揺らしている。  もうひとりは、佐々田海香(ささだうみか)。健康的に焼けた肌と、目をつり上げて怒る様子から活発さがよくわかる。  二人も、修吾と同じく幼なじみだ。  小さな頃から四人一緒で、兄弟姉妹のように育ってきた。仲良し四人組。これからも、ずっと変わらない関係なのだろう。そう、思っていた。そうありたいと、思っていた。 「あ……」  小さな声を零した遥斗は、一瞬、立ち止まりそうになって、けれど何でもないように足を踏み出す。  だが、幼なじみは、そういう小さな変化にも気づくもので。海香が細い眉を顰め、怪訝な顔をした。 「ちょっと遥斗、何よ今の」 「いや、別に」 「別にってことはないでしょ。何よ、言いなさいよ」 「……もしかして、また幽霊か?」  そう聞いたのは修吾。三人の視線が突き刺さり、あー、うー、と言葉にならない音が口から漏れていった。 「……まあ、そんなとこ…………」  小さく肯定した。  物心がついた頃には、当たり前のように見えていた。それが普通は見えない存在だと知ったのは、一緒に遊んでいた三人が、不思議そうな顔をした時。そこに人がいると言っても、最初は信じてもらえなかった。  死んだ人間は普通は見えない――そう教えてくれたのは両親だ。父も母も霊能力者で、同じ視界を持っていた。そこにいることを、知っているだけでいいんだと、そう言っていた。  両親は名高い霊能力者として、各地から呼ばれているため家を留守にすることが多い。除霊――ではなく、土地の穢れを清めるのが二人の仕事だ。土地が与える影響は大きいらしく、土地神の力を借りて清めるらしい。詳しく知らないのは、あまり興味がないからだ。将来は、幽霊とは関係ない仕事に就きたい。そう思っている。  そんな生まれのおかげで、幽霊は常にそこに居るモノだった。両親の言う神様には会ったことないから、本当にいるのかは知らないけれど。  だから、得体の知れないものへの恐怖を感じたのは久々だったのだ――。  そっと、振り返る。  幽霊は常にそこ居るモノで、日常の中に溶け込んでいるモノ。  けれど、あれはあまりにも――ぞっと、背筋が寒くなる。  そこに立っていたのは、頭がない男性の霊だった。  体の一部がない霊は多くいるが、首から上がないなんて、そういるものじゃない。昔の武将や侍ならまだしも、現代の服を着ている。最近死んだ霊であることは明らかだった。 「遥斗、そんなに気になるヤツなのか」 「え? あ、いや? 別に?」 「えー、本当? まさか、可愛い女の子だったとか~?」 「ば、んなわけあるか!」 「遥斗君……」 「違うって!」  見えることを知っている三人は、当たり前のように受け止めてくれている。  けど、アレは、さすがに。見えないのだから、言わなくてもいいことだ。変に不安にさせてしまうものではない。見えないなら、それでいいのだ。
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