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第二話 生まれ変わったら
狭い壕に何百人もの兵隊が押し込められている。
座るスペースもない狭く暑苦しい通路で、近藤二等兵が山本老兵に小声で訪ねた。
「山本さんは、生まれ変わったら何になりたいですか」
突然の質問に、山本老兵は目を丸くした。
でも、すぐにニヤッと笑い答えた。
「そうさな。俺あ、作家になりてえな」
「作家ですか」
「ああ。作家になって、こんなバカみてえな死に方をした男共が居たって事を面白おかしく書いてやるんだ」
「なるほど。それは面白いですね。山本さんらしいです」
「太宰治や夏目漱石みてえな大作家にはならなくとも、そこそこ読まれる物を書いてみてえもんだ」
「でも、その為にはここの記憶を持って逝かなきゃなりませんよ」
「おっと、そうだったな。こんなクソみてえな事とっとと忘れてえけど、そうもいかねえみてえだな。ハハッ」
「じゃ、もし生まれ変わったら僕は作家山本さんの愛読者になりますよ」
「そうか。よろしく頼んだぜ」
「はい」
「ところで、そういう近藤君は何に成りてえんだ」
「僕は、犬になりたいです」
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