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ケツに、みっちりと青大将の胴みてぇにぶっといモノが突っ込まれている。
それがどうにも良い具合…なのだろう…、腹の中を犯しているのだから俺は息をするのでやっとだ。
「好いですか?」
そんなもん分からん、こちとらコレが初めてなのだから。
こんなおっさんにこんな事をして、一体何が楽しいのか。
俺はこんな始末になってしまった事の始まりを、勝手に流れる涎と涙で顔を汚しながら思い出す。
「はあ? 異国から来た船人全員が憑りつかれて、ぶっ倒れた? 本当に俺の仕事なのか? 医者じゃなく?」
短い髪の揃った頭を掻く俺に、お上からの使者は汗だくででもしっかりとした気持ちの顔で頷く。
正気なのは分かったが、いまいち信じられん。
古寺坊主の俺に舞い込んだ仕事は、「異国の鬼を封じて欲しい」というものだった。
「まあいいや、その鬼を見せてみろ」
茶のひとつでも出してやろうか、珍しいから歓迎してやる。
使者は頷くと、「気を付けて」と一人の長身の男をこちらへ足蹴で放って来た。
俺は慌ててその男を受け止める、途端広がる袈裟に炊き付けた沈香の香り。
「…良い匂い」
俺に抱き締められた男が、その顔を上げる。
金色の髪に、碧い瞳。
身形はメリケン国の服だろう、体に張り付いたようなやつ。
ザッと男を値踏みし、害は無しと判断する。
「こいつは─…」
「じゃあ!!確かにお願いしましたよ!!」
使者はそう叫ぶと、寺からすたこらさっさだった。
…訳はこの男から聞くしかない。
「おいあんた、名前は?」
「…ヴァニラ、です。和尚様のお名前も教えて下さい」
「若庵(じゃくあん)だ」
…異国人のくせに、やけにこの国の言葉が流暢だ。
「…で、ばにらさんよ。あんた、なにをした?」
「食事をしただけです」
「人食いか!!」
「違います、僕は、…人の精を食べる魔物です」
「はー…、…船人全員を骨抜きにした、と」
「はい。でもそれも生きる為でした」
船人が何人居たか知らんが、どんだけだよ…。
こいつは退治というより、修行が必要なのかも知れないな。
そんな事を考える俺の耳に、ぐううと腹の虫の鳴き声が聞こえて来た。
「…腹、減ってんだな。…俺は年は食ってるが、喧嘩事には負けた例がない。そんな俺からどうやって精を抜く?」
簡単に組み敷かれる俺ではない、そう思っていたのに。
ばにらがスッと俺の首筋を撫でただけで、俺は畳の上に倒れ込んでしまった。
なに、なにをされたんだ?
病気で寝込んだ後みたいに、体が動かせない。
そして、体が達した後みたいに震える。
「僕は、触るだけで『食事』が出来ます。好きな人としか体は重ねません。…でも、そうですね、貴方となら…」
そう言って、ばにらは俺に覆い被さって来た。
ばにらがスッと俺の肌に手を滑らせるだけで、そこから甘い痺れが広がる。
全身ソレをされ、俺の下拵えはすっかり完了だ。
「可愛い…、一目で好きになりました。若庵さん、この国では体の関係は婚姻を意味するのですよね?ふふ、じゃあもう若庵さんは、僕のお嫁さんだ」
なんて馬鹿な事をしやがるし言いやがる…!!
「お、俺の気持ちは、どうなる…っ!!お前なんか好きじゃない…!!」
俺が情けなく泣き出すと、ばにらは顔色を変えた。
「…僕、初めて振られました」
ばにらは、「こんなに好きなのに」「僕の事を好きになって下さい」とおいおいと俺に縋り付いて泣き始めた。
知らん。
俺は諸々の疲れから、ばにらを放置してそのまま寝た。
目が覚めると、自室の布団の中だった。
昨日のは全部、夢だった?
身支度をして部屋から出る俺は、でっかい誰かに抱き着かれる。
「おはよう御座います、若庵さん。朝ごはん、出来てますよ」
「は、お前…」
「和尚様!!やっと起きましたか、旦那様がずっと待ってらしたわよ!!」
ばにらを剥がし見ると、村の婦人達。
「和尚様も憎いわあ、いつのまにこんな旦那様を捕まえてえ!! 色々聞いたわよお」
「ねえ」
「あはは」
「いや、これはな…」
婦人達の誤解を解こうにも、やんややんやと囃し立てられるばかり。
…ばにらの奴、こうして周りから囲むつもりか。
先手を打たれた!!
こうして、俺とばにらは村公認の仲になってしまった。
怒った俺は、徹底的にばにらを無視した。
…でも、ばにらはいつも「若庵さん、若庵さん」とニコニコとして、寺の掃除をしたり読経する俺の後ろにそっと座っているばかり。
…なんか、ばにらは健気で可愛いし、俺が根性悪みたいじゃないか…。
俺はばにらと話し合う事にした。
ばにらがこの寺に来て、ひと月目の夜。
俺は、別室に寝るばにらを自室へと呼んだ。
「なんでしょう」
着物姿のばにらが、俺に向かい正座をする。
ふーん、まともに見てみれば着物似合うじゃないか。
いや、そうではなく。
「…ばにら、国へ帰れ」
「嫌です」
即答かよ。
「貴方と離れる位なら、死にます」
どんだけだよ。
行燈の明かりに照らされるばにらの顔をやっと見る、…あれ、こいつこんなに顔色悪かったっけ?
…そうだ、こいつはひと月近く食事をしてない!!
「お前…」
「…これで、貴方も無事にお勤め終了ですね」
「…これは俺が望んだ事じゃない。…吸えよ、精気」
「要りません」
「おい」
ばにらは俺を無視し、部屋から出て行く。
「…何なんだよ」
俺はなんだか無性に寂しさを覚えた。
その夜を皮切りに、ばにらは俺に近寄らなくなった。
ふん、どこぞの誰かの精気でも吸うといい。
…俺以外の。
…無性にむかつくな。
「おい、ばにら」
「なんですか、急に。まだお昼ごはんの支度の途中で…」
「いいから来い」
俺はばにらの腕を掴み、自室へと引きずり込む。
ピシャリと障子を閉めつつ、ばにらを畳へと突き飛ばした。
…こんなに弱っちまって…。
なんだか泣きたくなる気持ちを唇を噛んで抑え、ばにらに伸し掛かる。
「吸え」
ばにらの手を取り、自分の首に巻き付かせる。
「嫌です」
「お前なあ!!」
「僕に死なれたら、後味が悪いですものね」
「っ、違う!!」
…、そう、違う。
こんなに好かれた事が無かったから、それをしてくれるばにらを失いたくないんだ。
それを正直にばにらに伝えると、「鈍い貴方にしては上出来です」と何故か笑われた。
「…一番早く精気を吸う手段が有るんです。それを貴方がしてくれたら、貴方の全てを信じます」
それが交わりだなんて、こんな俺にも予想はついた。
「好いですか?」
「いいも悪いも、よく分からな…、ひいっ」
腹の中の蛇が更に奥まで入って来る。
「こわい、ばにら」
「大丈夫、貴方を愛したいだけ」
そうやってあやされ、愛され、俺達は朝までぐちゃぐちゃに蕩け合った。
もう認めざるを得ない、俺はばにらが好きだ。
ばにらは御仏様みたいな笑顔を浮かべ、くうくう俺を抱き締め今も夢の中。
満腹だと眠くなるもんな、分かる分かる。
でもな、俺はケツに違和感有るし腹の中もまだマラが入ってる感覚して寝れねぇよ!!
むかつくから、ばにらの鼻を指で摘まむ。
暫くすると、息苦しさにばにらが鼻をふすふすし始めた。
可愛い。
「ばにらが好きだ」
その告白はばにらには聞こえてないだろうけど、これからいっぱい伝えればいいだけの話────。
了
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