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 焦る僕を置き去りにして、メイくんの注文は続く。こうなったメイくんを止めることは誰にもできない。というか、そもそも自分のウインドウは自分以外は見えないはず。つまりメイくんは、脳内の想像だけでここまでの要求ができてしまうということになる。なんてすさまじいイメージ力なんだ。僕にはとても真似できそうにない。 「――で、そこを変えたら最後にオッケー」 「最後にオッケー……あ! 流れでついオッケー押しちゃった!」  メイくんの自然な誘導に流されて、僕はウインドウに表示された「これでよろしいですか?」という最終確認に「はい」で答えてしまった。  その瞬間、まるでカメラのフラッシュをたかれたかのように、世界が真っ白になる。思わずぎゅっと目を閉じた僕の全身を、大きな羽がなでていくような不思議な感覚がして――やがて、世界が元の明るさを取り戻した。 「うわあ……」  いつの間にか、目の前のウインドウが鏡のようになっている。そこには、巫女とはまた百八十度もイメージが違う女の子が映っていた。  基本的なベースは学ランだけど、ズボンの丈は膝上。編み上げブーツというのも、メイくんの希望そのままだ。これまたメイくんの希望どおり、ラジオ巻きの髪型の上に、学帽がちょこんと乗っている。なにより目を引くのは、学ランの上に着た袖ありのマントだ。ピンクから赤、そして紫へと変わるグラデーションは、言葉で説明すると派手なようにも思えるけど、実際に見ると絶妙な上品さを保っている。花をモチーフにした模様も添えてあるので、まるで豪華絢爛(ごうかけんらん)な着物を羽織っているようだった。  客観的かつ正直に言うと、とてもかわいい。けれど、僕の口から真っ先に出てきた感想はといえば――。 「あ、足が! 足がスースーする……!」 「おー、かわいい」 「おっかしいな、僕はカッコよくなりたかったはずなんだけど……ちなみに、このカスタマイズってあとから修正はできる?」 「できるけど、お金と特殊なアイテムが必要だから今は無理」 「そっかー!」  というようなことで大幅に時間を消費してしまったけど、僕たちの本日の目的はイベントを楽しむことだ。基本的に戦闘にしか興味のないメイくんの気が変わらないうちにと、僕は彼の背中を押しながら橋を後にするのだった。  ……うう、やっぱり足がスースーして落ちつかないです。
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