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「そろそろ落ちる」
しばらく二人でお店を冷やかしたり街並みをぶらぶらしたりNPCにチヤホヤされたりしたところで、メイくんが思い出したように足を止める。
「え? もう? 珍しいね、なにか急用?」
「言ってなかったっけ。新作ゲームの生放送がはじまるからチェックしたい」
「ああ、なるほど」
さすが、メイくん。もうヒノモトの次にやるゲームの目星をつけているらしい。きっと近いうちに僕もそのゲームをやることになるんだろうと確信しながら「どうぞ」とログアウトをうながした。
「夏樹は、まだやる?」
「うん、せっかくだからもう少しだけ見ていくよ。あと、たぶん忘れてると思うから言うけど、僕のヒノモトでの名前はハルキだからね?」
驚くことに、このヒノモトでは見た目だけでなく初期職業と名前まで勝手に決められてしまう。「それが自分の本当になりたいものなんだよ」という運営の説明には、僕はあまり納得がいっていない。それが原因でヒノモトをやめてしまったプレイヤーまでいるらしい。僕だって、ハルキという名前の巫女さんになってしまったのは完全に不可抗力なので、その人たちの気持ちもよくわかった。
「ん、知ってる。オレもここでは、シュレットガルドさんだから」
「了解、シュレットガルドさん」
「なんか他人行儀っぽいね」
「さん付け要求してきたの、そっちなんですけど」
短い漫才をしたあとで、メイくんはさっさといなくなってしまった。戦闘中にログアウトはできないけど、拠点の中などの安全な場所では簡単にできてしまう。光の粒子となって消えたメイくんを見送ってから、僕はお祭り散策を再開することにした。
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