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「ひぇっ!?」  小さく肩を震わせた僕は、鳥が首を絞められたような悲鳴を上げてしまう。どうしよう、怖い。めっちゃくちゃ怖い。  音の原因を確認するべきか、それとも急いで立ち去るべきか。冷静に考えることができたのなら後者一択だったんだろうけど、混乱している僕に正常な判断は難しい。助けを求めて、なぜかフレンドリストを開いてしまった。  頼みの綱のメイくんは、当然オフライン。あー、今ごろ部屋でのんびりゲームの生放送を見ているんだろうな。僕がこんな怖い目にあってることも知らないで。 「すー……はー……」  心の中でメイくんに八つ当たりをしたら、少しだけ冷静さを取り戻すことができた。深呼吸をして、さらにちょっとだけ落ち着く。  そういえば、水音が聞こえたのは一度きりだ。単純に魚が跳ねただけなのかもしれない。いやいや、ここは毒の泉だ。普通の生き物なんているはずがない。  ということは、やっぱり誰かが――なにかがいる? 「……っ」  ごくりと唾を飲み込んで、からからに干上がったのどを湿らせる。しばらく迷ってから、水音が聞こえた方向へと足を踏み出した。大きな泉をぐるりと取り囲んでいる葦のカーテンから、おそるおそる顔を覗かせる。 「!」  泉の中央に、それはいた。  縦に伸びた細長いシルエットが、満月の光を浴びて輪郭を金色に輝かせている。ここからでは距離がだいぶ離れているうえに、逆光で影になっていてよく見えない。大きな獣だろうか。いや、違う。人だ。人の後ろ姿だ。狼の毛並みのような長い髪を背中に流し、腰から下を泉の水に浸しながら、微動だにせず立ち尽くしている。  最初は物怪だと思った。人型の物怪はレベルが高い。もし戦うことにでもなったら、僕なんか一瞬で戦闘不能になってしまう。思わず腰が引けてしまったけど、もうひとつの可能性に気づいて踏みとどまる。  まったく動く気配がないところを見ると、ひょっとしたら石像とか銅像なのかもしれない。観光地なんかによくあるオブジェクト。ここはゲームの世界なんだから、泉の真ん中に意味不明なものが置かれていても不思議じゃない。 「……え? あれ、人間?」  真実を見極めようとする僕の視線の先で、人影がわずかに動く。ほんの少しだけ、横顔が見えた。僕は思わず身を乗り出すようにして目を凝らす。  よく見ると、顔の上半分だけを鬼の面のようなもので隠している。残りの下半分には、ちゃんとした人間の鼻や唇があるので、少なくとも物怪ではなさそうだ。そうなると、次に浮かぶ疑問はひとつ。 「なんで、あんなところに……?」
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