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「え……?」  顔を上げた瞬間、ざあっと強い風が吹いた。舞い散る無数の花びらが、僕の視界を覆い隠す。目をすがめながら風が通りすぎるのを待ち、ようやくクリアになった世界で、僕は見た。――鬼の面を被った、長身のアバターを。  銀灰色(ぎんかいしょく)の長いざんばら髪。和紙の折り紙で作られたかのような、全体的に派手で角張(かくば)った衣装。青い空と太陽の光を背景にしたその姿は、まぶしいほどに輝いている。なにより特徴的なのは、顔の上半分を隠す鬼のお面だ。二本の角も生えているので、たしかに鬼だということはわかる。でも、どこか未来的なデザインのおかげで、僕は日曜日の朝によく見るバイクに乗ったヒーローを連想してしまった。  月蝕の泉で出会った鬼面――で、間違いないはず。その人が、橋の欄干の上に片足で立ったまま、じっと僕を見下ろしている。  突然の遭遇で声も出ない僕と同じように、鬼面も無言のままだ。表情はよくわからないけど、なにやら少し驚いているような雰囲気がしなくもない。 「アンタ……」 「ひゃい!」  低い声で呼びかけられて、僕はびっくりしてしまう。背の高さと体格の良さから察してはいたけど、やっぱり男の人だった――というか、しゃ、しゃべったあ! ひょっとして、僕のこと覚えてる? そもそも、今どういう状況? この人、一体どこから来たの? 「いたぞ、捕まえろ! あそこだ、橋の上だっ!」   「え、え? なに? なに?」  なぜか麗春祭が行われている北側から、たくさんの人たちが土煙を上げながら走ってきた。全員が同じ制服を着ている。NPCの警察だ。街の中やフィールドなどで、たまに巡回しているのを見かけることがあるけど、こんなに大勢の警察を一度に見たのは初めてだ。それが僕たちに向かって「かかれー!」とか言いながら、ものすごい勢いでやってくる。 「え? え、ちょ」  後退しようと振り返ると、南側からも同じような人数が、同じような形相で突撃してくる。完全に挟み撃ち。橋の上なので、どこにも逃げ場がない。  僕に心当たりがない以上、彼らが追いかけているのは鬼面のアバターということになる。何をしたのかはわからない。警察が捕まえようとしているくらいだから、多分あんまりよくないことだ。  再び鬼面を見上げれば、驚いたことに彼はいまだに僕のほうを見ていた。警察の動向なんて、まるで自分とは関係ないと思っているのか。もしくは、捕まったって構わないと思っているのか。  また、なにかを諦めているんだろうか。――あの、毒の泉のときと同じように。
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