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コロとの再会は、あっけないほど早く訪れた。
「あ」
「ほ」
火ノ都の南側。新聞社をめざして街なかを歩いていた僕の視線と、ひときわ目立つ派手なアバターの視線がバッチリ合う。
「……なにやってるの?」
「トンカツ食べてる」
「それは見れば分かるよ。火ノ都の洋食屋の、しかもテラス席で、のんきにトンカツなんか食べててだいじょうぶなのか、ってこと。《はぐれ者》は警察に見つかったら追いかけられるんでしょ?」
「ああ、……むぐ。知ってんのか」
はぐれ者。それはコロから猫又の卵を託された日にログアウトして調べた結果、新しく知ることになったヒノモト用語だ。
鬼の面のような呪われたアイテムの装備者は、はぐれ者――正しい道を外れた者――とみなされて、NPCである警察などに追われることになってしまう。あの橋の上で遭遇した現場が、まさにそれだったのだ。
「見つからなければだいじょうぶだし、見つかっても街の外に出れば追ってこないからヘーキだって。ってか、そんなとこに突っ立ってないでココ座れば? あ、これから用事でもあんの?」
「いや、特にないけど……」
きょうもメイくんはログインしていない。つまり、僕は全力で暇を持て余している。
だからコロと会えたのは幸運だったし、正直とてもうれしかった。相手が鬼の面なんか着けてなくて、警察の影にビクビクする必要がなかったら、もっと素直に喜べたんだけど。
「……ホントに、だいじょうぶ?」
「ハルキは心配しすぎだって」
「君が堂々としすぎなんだと思う」
周りを見回しながらコロの正面の席に座った僕のところに、NPCのウェイトレスさんが水を持って注文を取りにきてくれた。慌ててテーブルの上の御品書きを開き「ミルクセーキをお願いします」と伝えると、目の前に自動的に精算が完了したことが書かれたウインドウが現れる。それを確認して笑顔で立ち去るウェイトレスさんの背中を見送ってから、僕はコロに向き直った。
「そのお面って、自分で外せないんだっけ」
「そういう呪いだからな」
これも調べてわかったことだけど、コロのつけている鬼の面のような呪われたアイテムは《呪具》と呼ばれる。とある特殊な状況下で、極めて低い確率で入手できる超希少アイテムだ。それを装備すると飛躍的に身体能力がアップするらしい。橋から川に飛び込んだときに水の上を走っていたのも、鬼の面による特殊能力だったわけだ。
それだけ聞くと、とても便利なアイテムに思える。みんなが欲しがって大変なことになっているかと思いきや、意外にそんなこともないらしい。
呪われたアイテムと呼ばれる理由――デメリットが、ちゃんとあるからだ。
「結構、不便じゃない? 警察に追われてたらイベントにも参加できないし、街歩きもゆっくり楽しめないでしょ?」
「だな。だから本来は、使い切り型のアイテムなんだよ。装備している少しの間だけ、高く跳ぶことや水面を走れることを楽しんだら、すぐに警察に自首して解除してもらう。俺みたいに、ずっと着け続けてる奴のほうがおかしい」
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