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 特コスにも着替えられないしな、と。笑ってトンカツにかぶりつくコロを見ながら、僕も運ばれてきたミルクセーキを飲んだ。じわっと広がる優しい甘さで、舌が溶けるように柔らかくなっていく。だからだろうか。いつもなら言わないような突っ込んだ質問が、口から飛び出してしまった。 「そんなにたくさんのデメリットを抱えてまで、鬼の面を被っていたい理由があるの?」  ぴたり。トンカツに伸びた箸と一緒に、コロの時間が止まる。  しばらく何かを迷うように波打っていた唇が、僕がコロの表情を判断できる数少ない部位が、やがてゆっくりと笑みの形を描いた。 「あるよ」  ああ、そうなのか。  パズルのピースが正しくはまるように、僕は理解した。  コロも――いや、コロの向こうにいる現実世界のコロも――きっとなにかを抱えている。誰かに言いたくても言えない、自分ではどうしようもないようななにかを。  ミルクセーキの力を借りていても、さすがにその内容まで聞き出そうという勇気は、まだ僕の中から湧いてこなかった。 「いたぞ、あそこだ! 洋食屋のテラス席で対象発見! 至急、応援を頼む!」 「あ、やべ。見つかった」 「ほらああ」  どこからともなく街角に現れた警察が、コロを指差しながらほかの警察の出動を要請している。またあの橋の上で見たような大所帯を呼ばれでもしたら大変だ。 「さっさと逃げよ。もう川に飛び込むのは嫌だよ、僕」 「えー? よく考えたら、ああやって川沿いに街を出るのが一番早いんだよな。あいつら、さすがに川の上までは追って来れねぇし」 「あ、まだ残ってる。はい、残さないで食べて」 「もがっ、もご」  コロの口の中に無理やりトンカツをねじ込んでから、二人そろってテラス席から飛び出した。警察のいるほうとは真逆の方向に走るとなると、目的地は自動的に街の北側になる。 「このまま橋わたって駅の裏側からフィールドに出て、そこから軽く狩りに行こ」 「いいけど――あ、ちょっと待って。巫女服だと走りにくいから着替える」 「いいって。こっちのがラク」 「わー! わー! お姫様抱っこ禁止!」  このあと、しばらく「火ノ都の麗春祭会場に巫女を俵抱(たわらだ)きにした鬼面が現れて、建物から建物へと飛び移りながら逃げていった」とかいう目撃情報が、一部のプレイヤーの間で話題になったらしい。後日、新聞社の壁新聞で、その記事を見つけた僕は「ぎゃー!」と悲鳴を上げることになる。
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