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 (ひのえ)エリアに流れる大きな川の近くは、一度にたくさんのメロンカッパンが出現することでおなじみのスポットだ。カッパンとは河童(かっぱ)から派生した物怪の総称で、メロンカッパンはメロンパンのカッパンのこと。なにを言っているのか自分でもわからないので、ちょっと整理しよう。  まず、ビーチボールサイズのメロンパンを二つ用意して縦に並べます。上のメロンパンに、つぶらな黒い瞳とヒヨコのくちばしをくっつけます。最後に大きなヒマワリを被せたらメロンカッパンの出来上がりです。  そのかわいらしい外見から、メロンカッパンはヒノモトを代表するマスコットキャラとして幅広い層に人気があるらしい。見た目どおり、あまり強くないので、初心者のパーティと戯れている微笑ましい光景をよく見かける。  けれど今、僕の目の前でくり広げられているのは、たったひとりの鬼面による、恐ろしくも凄惨な独壇場(どくだんじょう)だった。 「……ああ、メロンカッパンがあんなに簡単に」  ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。その言葉のとおり、コロに倒されたメロンカッパンがポンポン宙を飛んでいく。「キャー」と、なぜかちょっと楽しそうな声を上げながら光の粒子になって消えていく姿が、小さな花火みたいだ。ときに殴りつけ、ときに蹴り飛ばす。コロが小さな竜巻のように動くたびに、見晴らしのいい川辺の青い空で夏の風物詩が咲いた。 「歌舞伎役者って、こんなにトリッキーだったっけ……」  そう。コロの職業は、歌舞伎(かぶき)役者らしい。たしかにテレビでちらっと見た《連獅子(れんじし)》という演目の役者さんに、雰囲気が似ていると思っていた。長い髪を振り乱して豪快に舞う姿はとても迫力があって、歌舞伎をよく知らない僕でも「カッコいい!」と夢中になったほどだ。  でも、どれだけ修練を積んだ役者さんでも絶対に真似できないと確信できるほど、コロの身体能力は異常だった。  普通ならここまでしか跳べないだろうという予測の二倍から三倍は高く跳ぶし、普通ならここまでしか走れないだろうという予測の二倍から三倍は速く走る。とにかく、すべての動きが想定外だ。とても同じプレイヤーとは思えない。まだ「新種の物怪です」と言われたほうが納得できた。  けれど、その尋常じゃない動きのデメリットは、やっぱり存在するらしい。
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