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 メロンカッパンが大量発生する川辺から、すぐ近くにある集落。そこが今回の僕のスタート地点だ。火ノ都から少し足を伸ばして物怪討伐へ向かうような人たちが通りすがりに寄るような場所なので、必要最低限の施設しかない。警察もいないから、ここでならコロもゆっくりできそうだ。でもそのコロには、きょうも会えるかわからない。フレ登録をしていないから。  なんとなく、フレンドリストを開く。そこにある名前は、たったひとつだけ。そのひとりも、ずっとオフラインだ。きっともう、オンラインマークがつくことはないんだろう。  コロにもフレンド登録を拒否された。いつかメイくんのように、ヒノモトで会うこともなくなってしまうのかもしれない。当たり前のことだけど、妙にさみしくなった。広いヒノモトに、今はたったひとりきりなのだということを強く意識してしまう。  思わずため息をついた、そのとき。僕の袖口から、何かがピョコンと飛び出してきた。 「にゃあ」 「え、君! 勝手に出てきちゃうの?」  ピンク色の小さな子猫。きのう生まれたばかりの猫又だ。こんなにかわいくてもペットではなく、あくまでもアイテムとしての扱いなので、ふだんはアイテムボックスの中に入っている。まさか、こんなふうに勝手に出てきてしまうなんて。僕の動揺など気にもせず、猫又は肩の上でちょこんと座り込み、そのまま額を僕の頬にくっつけてきた。かわいい。 「君がいてくれるなら、ひとりじゃないね」 「みゃあん」  猫又のお陰で、センチメンタルな気持ちも遠くに消えてしまった。この集落では麗春祭のような大きなイベントはやってないけど、ゆったり散策してみるのもきっと楽しいだろう。そう思った僕は、屋台の方向から流れてくる魚の焼ける匂いに向けて足を踏み出した。 「あれ、巫女さんじゃん。こんなとこで何してんの?」
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