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背後からの粘ついた声に、足下をからめとられる。思わず立ち止まったあとで、しまったと後悔した。この声の主は、多分あんまりよくない人だ。僕の中の危険信号が黄色く点滅している。
人違いであってほしいけど、そんなにホイホイ声をかけられるほど、この集落に人はいない。巫女とは、ほぼ間違いなく僕のことだ。立ち止まってしまった以上は、アクションを返す必要がある。おそるおそる振り向くと、ゴテゴテの装備に身を包んだ侍が、得物を見つけた狼のような視線を僕に向けていた。
「巫女さん、ひとり? まさかここでソロ狩りしてるってことないよな。暇してんならオレらと組もうよ」
「いえ、僕は――」
「おーい、こっち! 巫女さん見つけたー!」
予想どおりの展開になってしまった。巫女は補助的な役割を得意とする職業の中でも、最も回復に特化している。だから、強いボスと戦闘する機会が多いパーティ――それも高レベルであればあるほど、巫女を必要とするらしい。僕も「中にはガラの悪い連中もいるから気をつけろ」と、メイくんとコロに忠告されていた。
目の前にいるニヤけた侍が、二人の言う《ガラの悪い連中》に当てはまるのは間違いない。現に僕の答えなど気にせず、大声で仲間まで呼び出した。
これは今すぐに逃げてしまったほうがいい。そう思って振り返れば、そこには侍の仲間らしき二人組の姿があった。山伏の男性と忍者の女性。こちらに向かって手を振りながら、すぐそこまで迫ってきている。
完全な挟み撃ち。ふと、あの橋の上で警察に追われた出来事を思い出す。ただ残念なことに、今はここにコロはいない。
「あ、ホントですね。やりましたね、回復役ゲットですね」
「でもこの子の装備見てよ、ちょっとレベル低すぎない? 術技の熟練度だって大して上げてなさそうだし、回復量もクールタイムも初期状態ならマジで使えないんだけど」
「まあ、いないよりマシだろ? 回復アイテムの消費が少しでも抑えられるんなら万々歳だし、何より結構かわいくね?」
「はあ? あたしのほうが絶対かわいいし」
僕を取り囲んでおきながら、僕を無視して好き勝手なことを話しはじめる三人組に対して、怒るを通り越して呆れてしまう。三人とも見た目は成人のアバターだけど、きっと中の人も、さらにその中身のほうも、どうしようもなく子どもなんだろう。
などと、僕がこんなふうに大人しく分析なんかしてしまったのがさらに悪かった。沈黙を肯定と受け取った三人組は、僕がパーティ加入に賛成したものと判断したらしい。行こう行こうと、強引に僕をどこかへ連れて行こうとする。
「あの、ちょっと! 離してくださ――」
「みゃ!」
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