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侍につかまれたほうの腕にいた猫又が、勢いよくジャンプした。そのまま侍の顔めがけて、鋭い爪を振り下ろす。風を切る音と皮膚の裂ける音に続いて上がる、侍の短い悲鳴。痛みはないはずなので、きっと驚きによるものだろう。僕もびっくりした。まさか、猫又が助けようとしてくれるなんて。
「いってぇ……、やりやがったな……」
「な、なななんですかこの子! ば、化け猫? 式神なんです……!?」
「は? 巫女のくせに陰陽師の術技を取得してるってこと? ってか、攻撃してくるなんてどういうつもりよ! ケンカ売ってんの?」
「ふみゃー!」
まったく見当違いなことをさけびながら、忍者の女性が怒りの形相で詰め寄ってきた。そんな彼女を威嚇するように、僕の肩の上にとんぼ返りした猫又が背中の毛を逆立てる。二股に分かれたオーロラ色の尻尾も空に向かってピンと突っ張り、またすぐにでも飛びかかっていきそうな気配だ。
このまま猫又をけしかけて、隙を突いて逃げるべきだろうか。でも、この優しい猫を武器のように扱いたくはない。すぐに判断できずに固まっている僕に向けて、忍者の女性の――それこそ猫にも負けないほどの長い爪が伸びてくる。
「っ!」
とっさにあいているほうの腕を猫又の盾にした僕の目の前。女性の爪よりも早く、大きな影が立ちふさがった。
「……なにやってんだよ、アンタら」
「な、鬼面ッ!?」
「コロ!」
見上げれば、そこにはあちこち跳ね放題の銀の髪。距離が近すぎて僕の視界に全部は収まらなかったけど、間違いない。コロだ。コロが僕を背中にしてかばってくれた。
いきなり現れたコロに驚いたのは僕だけではなかったようで、長い爪の女性がコロに腕をつかまれたまま、怯えたように後ずさる。
「いいオトナ三人で巫女いじめて楽しいか? カッコ悪すぎ。めちゃくちゃ笑える」
「う、うるさいわね! だいたい、先に手を出してきたのはそっちじゃない! 正当防衛よ……!」
「オイオイ、正義の味方のご登場ってか? 鬼面さんよぉ」
コロの手をはねのけて素早く距離をとった女性と入れ替わるように、頬に爪痕をつけたままの侍が進み出た。僕に最初に声をかけてきたこの人が、三人組のリーダーなんだろう。ほかの二人は後ろに下がったまま、黙って事の成り行きを見守っている。
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