3人が本棚に入れています
本棚に追加
/78ページ
「こんなところで会えるとは思わなかったぜ。そのイカしたお面、チート使って手に入れたって本当か? アホみてぇな身体能力を見せびらかして有名人きどりたぁ、さぞ気分がいいだろうなあ」
「呪具のデメリット知ってる? それでもそんなこと言えるなら、俺よりアンタのほうがよっぽど鬼面に向いてんよ」
そこまで言ってから、コロが右手の指先を自分の面に当てて、とんとんと軽くたたく。
「チートとやらで頑張ってドロップして、そのだっせぇ傷跡と悪人ヅラを隠せるようになるといいっすね。センパイ?」
「このクソガキ……! いい度胸だ、オレと勝負しやがれ! 《仕合》だ!」
まんまと挑発にのった侍が、コロに向かって節くれだった指を突きつける。すると、両者の間に大きなウインドウが出現した。
ヒノモトでは《仕合》と呼ばれる、アバター同士の一対一の戦闘を行うことができる。デスペナルティは存在しないので、友人同士がスポーツ感覚で使用することが多い。
ただし、それは両者が合意のうえであることが大前提だ。今回のように片方がケンカ目的でふっかけてきたとしても、相手にしなければ成立しない。
「そんなの無視していいからね、コロ」
コロの肩越しに顔を覗かせて、空中に現れたウィンドウを確認する。案の定、相手の仕合の申し込みに対して、同意か拒否かを選択する画面のようだ。コロが拒否すれば、侍はおとなしく引き下がるしかない。ひょっとしたら「逃げるのか」とかなんとか言われるかもしれないけど、そんなことはどうでもよかった。カッコ悪いのは、向こうのほうだ。
けれど、コロが選択したのは――「同意」のボタン。
「コロ! なにやってんの!?」
「下がってろ、ハルキ。危ないぞ。あ、わかってると思うけど回復とかしなくていいからな」
「仕合は一対一がルールでしょ、わかってるよ! だから余計に嫌だったんじゃないか!」
後ろからコロの腕をつかみ、どういうことなのかとガクガク揺すぶるも、コロの反応は鈍い。いつもなら軽いノリでおどけて返すところなのに、顔をこちらに向けることもなく、相手の侍を見据えたままだ。なんだろう、機嫌が悪い? いや、それよりも――。
「コロ……?」
「おうおう、今生の別れみてぇだな。無様に散る覚悟はできたかあ?」
最初のコメントを投稿しよう!