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 侍の声にはっとして、僕はコロから離れる。そう、もうここは戦場になった。街の中は基本的にセーフティーゾーンで、アバターがダメージを受けるようなことはない。さっきの猫又の一撃だって、ゲームの演出として侍の頬に傷跡を残したものの、体力ゲージにはなんの変化も与えていない。  けれど《仕合》による効果で、この辺り一帯はボス妖怪がいる領域のように重く張り詰めた空気に充ちてしまった。 「……気をつけてね」  距離をとったまま動かない侍とコロから少し離れたところで、僕と山伏と忍者は大人しく観客になる。  仕合のルールはいくつかあリ、勝利条件もさまざまだ。今回は「一対一でどちらかの体力がゼロになるまで戦う」という、最もベーシックなルールが選択されているらしい。  使用する武器は、両者とも同じ日本刀。この仕合の間だけ特別にレンタルされるようで、いつの間にかコロの手にも握られていた。でも歌舞伎役者のコロはいつも素手で戦うのに対して、相手の侍はふだんから刀を使っている。これはコロに不利なハンデじゃないかと思ったけど、コロ本人がそれでよしとしているなら、僕は口を挟めない。  仕合専用の空間なので、いつもならパーティを組まないと見えない体力ゲージが、それぞれの頭上に表示されている。何となく相手のレベルも一緒に確認した僕は、思わず大きな声を上げてしまった。 「レベル三十五!? コロより十も上!?」 「ふふん。伊達に毎日、仕事上がりの疲れ切った体に鞭打ちながら寝る間も惜しんで地道にコツコツコツコツ戦ったりしてないわよ」 「なんでそんな人たちが初期エリアの集落にいるレベルの低い野良巫女を拉致しようとしたんですか?」 「みゃ! みゃ!」 「人聞きが悪いこと言わないでちょうだいっ! よ、世の中には相性ってものがあるの!」  体三つ分ほど開けた距離にいた爪の長い忍者の女性と、なぜか漫才のようなやり取りをしている間にも、侍とコロのにらみ合いは続く。  そして、仕合開始のカウントダウンがはじまった。
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