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 あれから三日たっても、コロには会えなかった。そもそもヒノモトにログインをしているのか、していないのかもわからない。  そんな失意の底をさまよっている僕を尻目に、世間は楽しい大型連休を迎えようとしていた。 「夏樹は、どこに行きたい? 電車でちょっと遠くに行ってみる? あ、飛行機でもだいじょうぶだよ!」  朝から楽しそうに旅行プランをすすめてくるお母さんに、僕は「うーん」と生返事をする。せっかくの連休だから僕を好きなところに連れて行ってやりたいという気持ちは本当にうれしいけど、いまはとてもそんなことは考えられない。  コロのことが、どうしても頭をよぎってしまうのだ。ご飯を食べていても、道を歩いていても。不意に思い出しては、そのたび大きなため息をついてしまう。  学校でも終始そんな状態だったらしく、見かねたメイくんが「どうしたの」と声をかけてくれた。でも、もうすでにヒノモトをやめてしまっているメイくんに、詳しい事情は話せない。余計な心配をさせたくないという気持ちと、あとは新しいゲームに一緒についていけなかったことについての罪悪感があったからだ。端的に言って、ちょっとだけ気まずい。 「なんでもない」と答える僕に、メイくんもそれ以上は聞いてこなかった。実にメイくんらしい距離感だし、僕たちはこれでいいのだと思う。今までもうまくやってきたし、これからだってうまくやっていけるはずだ。きっと。
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