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 大通りの横断歩道は避けて、少し離れた歩道橋へ向かう。もうすっかり身についてしまった習慣だ。鉛のような足を引きずりながら階段を上り、肩を落としながら通路を歩く。  ふと後ろから近づいてくる軽い足音に気づいて、慌てて目元をこすった。すぐに僕を追い越していくとわかっていても、恥ずかしいものは恥ずかしい。なんでもありませんよという表情をつくってから顔を上げると、なぜか足音が急に止まる。不思議に思って振り返れば、そこには僕とほんの十数歩の距離をあけて立ちすくむ人影があった。  小学生くらいの、男の子だ。ほぼ部屋着のような薄手の服装にサンダル。なにか大事な用事があって、ここまで急いで走ってきたんだろうか。その割には、なぜか僕を凝視したまま、いつまでたっても動かない。 「あの……、だいじょうぶ?」 「!」  僕の呼びかけに、男の子が大きく肩を震わせる。うん、たしかに急に知らない人間に声をかけられたらびっくりするよね。でも、そこまで驚かなくてもいいと思うんだ。僕そんなに怖い顔してたかなと、ちょっとだけ傷つきながら、相手の次の反応を待つ。 「……なんで?」 「え?」  なんで? どういう意味だろう。心配して声をかけたことに対しての「なんで?」に、どう答えを返せばいいのだろう。  僕が混乱しているうちに、男の子が苦しそうにせき込みはじめた。急いで走ってきた反動だろうか。僕もレインボーカッパまで全力疾走したときは落ち着くまでに時間がかかった。でも、この様子はそれとは全然違う。 「だいじょうぶっ?」  いつまでたっても治まらない。それどころか、どんどん激しさを増していく。不安になった僕は、思わず男の子の元へと駆け寄った。膝をついて正面から覗き込む僕と、胸を押さえながら体をコの字に折り曲げた男の子の目線が同じ高さでぶつかる。 「……っ」  苦しそうに息をしながらも、僕と自分の顔の間に壁でもつくるかのように、男の子が片手をかざした。だいじょうぶ、という意思表示だろう。その年齢に似合わない大人びた仕草に、ずきりと胸が痛んだ。  きっと、日常茶飯事なのだ。彼はもうずっと具合が悪いに違いない。 「っねぇ! 背中に乗って! 君の行きたいところまで送るよ」 「は?」
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