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「え?」
現実世界では一度も耳にしたことがない名前。僕とメイくんと、コロしか知らない名前。その名前を、背中にいる小学生の男の子に呼ばれたということは。
――と、いうことは?
「あ」
「ちょっ」
完全に足元への注意が疎かになった僕は、危うく階段を踏み外しそうになった。おんぶで両腕が使えないながらも必死に体勢を整えて、はあっと大きな息をはく。いろいろな意味で、心臓が口から出そうなくらいびっくりした。
「あっぶな! 言ったそばからなんなんだよ、アンタは!」
「ご、ごめんっ! え、ホントに? ホントにコロなの?」
「やめろ、こっち見んな」
亀みたいに首を伸ばして後ろを覗き込んでも、男の子が逆の方向へ顔を背けてしまって、まったく確認できない。でもそんな仕草がコロっぽくも思えて、本当に本当なんだなと実感できた。
「……うわあ、すごい。よかった、会えたあ……!」
「なんでこんなとこにいんの? ひょっとして、わざわざ俺を探しに来たとか?」
「ソ、ソウデス」と、あまり胸を張って言えることではないと思ったので控えめに答えておく。
「にしても、よくわかったな。レインボーのカッパくらいしかヒントがなかったのに」
「そのレインボーのカッパがそれだけ珍しいってことだよ。でも来てみたはいいものの、君を探す決め手にかけてて……だから、君が見つけてくれて本当によかった」
そこまで言ってから、ふと気づく。
「コロのほうこそ、よく僕ってわかったね」
「……部屋のベッドから、いつもみたいになんとなくカッパを見てたら、ものすごい勢いで走ってくる奴がいて。誰かと待ち合わせでもしてるのかと思ったけど、なんか上ばっかりキョロキョロ確認してて挙動不審だったし」
「う」
「そのまま何十分も居座り続けるから、さすがにおかしいと思ったときにヒノモトからの通知が来て」
「あ、うん。メンテ開けのお知らせだよね」
「不審者も同じタイミングでスマホを取り出すのが見えたから、ひょっとしたらこいつもヒノモトやってんのかなって」
「ああ、なるほど」
「顔はさすがにはっきりとは見えなかったけど、背格好とか雰囲気とかがハルキに似てるような気がして、だから――」
「走って追いかけてくれたんだ。……体調、悪いのに」
「いつものことだし」
いつものこと。そうか、やっぱりいつものことだったんだ。コロの軽すぎる体、細すぎる腕。その意味を、改めて理解する。
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