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「な、なに?」  思わずコロへ視線を向けると、彼のさらに奥のほうで、大きな岩のようなものが盛り上がってくるのが見えた。  いや、違う。岩じゃない、物怪だ。女性の上半身だけが、ゆっくりと地面から生えてきた。僕がめいっぱい両腕を広げても半分にも届かないほどの大きな燃える車輪を、六本の腕でしっかりと抱え込んでいる。長い黒髪が垂れ下がっていて、顔は見えない。何本にも別れた髪の束の先には、それぞれ炎をまとった車輪がくくりつけられて、ゆらゆらと輝いていた。  さっき見た火車より、一回りも二回りも大きい。肌も赤黒く変色していて、全身から蒸気が立ち昇っている。 「これって、まさか第二形態……?」  誰かが話していた。火車は二段階に変化すると。コロが倒したと思った火車は、あくまでも第一形態。そしてきっと、今のこの姿が火車の第二形態なんだろう。つまり、戦いはまだ終わっていない。 「!」  不意に、ぽつぽつと周囲に無数の火の玉が浮かぶ。ゆらゆらと赤く揺らめくそれは、やがてひとつひとつが小さな車輪の形を取りはじめた。そうして、あるものは流れ星のように空中を駆け、あるものは地面をどこまでも転がっていく。炎の尾を引き、熱をまき散らしながら、縦横無尽に動き回る。  これは火車の攻撃じゃない。麗春祭のイベント会場で舞っていた花びらのエフェクトと同じ、ただの舞台演出だ。だから触れたとしても、ダメージを受けることはない。  普通なら、きっとキレイだと思うんだろう。火車との最終決戦を前に、士気もテンションも上がるに違いない。  ――だけど僕には、それがなによりも恐ろしかった。 「コロ……!?」  全身が石のように固くなって動けない僕の視界に、がくりと膝を折るコロの姿が映り込んだ。体力ゲージは真っ赤。つまり《瀕死》の状態だ。たしかに体が動きにくくなるけれど、本当にそれだけだろうか。立ち上がれないほど苦しんでいるのは、現実世界の小太郎くんのほうなんじゃないのか。 「っ、コロ! 早くログアウトして!」  コロとは距離が離れているので、バイタルアラームの音が鳴っていたとしても僕には聞こえない。もし鳴っているなら、すぐにでもヒノモトをやめて安静にしてほしい。そんな願いを込めて、大声でさけぶ。  ボスが第一段階から第二段階へ移行する、このインターバルは、本来はプレイヤーたちが次の戦闘のための準備をするために設けられている。ボスに対して戦闘のアクションをとらないかぎり、向こうはなにもしてこない。つまりは非アクティブ状態だ。だから今なら簡単にログアウトできる。 「ここまで来て、ハルキ」
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