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 こちらに向き直るように座り込んだコロの口から、感情の読めない声が飛んできた。怒っているわけでも、焦っているわけでもない。むしろ穏やかな声が、はっきりと僕の耳に届く。 「アイテムがもうないから、回復して。そんで、コイツ倒す」 「なに馬鹿なこと言ってんの!? もういいから! 今すぐログアウトしてよ……!」  緊急事態だというのに、まだ戦闘を続けようとするコロの真意がわからない。無理をしてまで火車討伐にこだわる理由が、わからない。  ひとつだけわかることは、僕は前に進まないといけないということ。コロを説得するにしても回復するにしても、まずはこの火の車輪の幻を抜けていかなければいけないということだけだ。 「ねえ、ハルキ。なんで車が怖いの」  まさか自分を人質にとって、僕に答えを要求するつもりなのか。なんでそんなことするんだ、どうしてそこまでするんだ。頭の中はゴチャゴチャだけど、コロの断固とした決意だけは僕にもはっきりと伝わった。  それなら、僕も応えなければいけない。今まで一度もされたことのなかった質問に、ちゃんと答えなければいけない。 「……三年前、事故にあったんだ」  つんと、水の匂いがした。雨の振る音が、さざ波のように耳へ打ち寄せる。 「その日は雨で、小学生だった僕は、傘を差しながら下校していた。双子の姉――春花と一緒に」  強く叩きつけてくるような嫌な雨だった。けれど、僕たち双子はその状況すら、きゃっきゃと楽しみながら歩いていたのだ。薄暗い大道路の端っこを、二人仲良く縦に並びながら。 「そこに、トラックが突っ込んできた」  甲高い悲鳴のようなブレーキ音は、今も忘れられない。反射的に振り返った僕の目の前に、制御を失った大きな鉄の塊が迫っていた。なにが起こったのかわからずに立ち尽くした僕は、そのままだったらトラックに跳ね飛ばされて、きっと死んでしまっていたはず。だけど。 「――春花が、僕をかばってくれた」  どん、と。トラックとは違う方向からの、強い衝撃。春花の細い両腕に突き飛ばされたのだと、まるでスローモーションのように離れていく自分と同じ顔を眺めながら理解した。  最期に見た春花は、なぜか笑っていて。  そうして。  そうして。 「僕をかばって、死んじゃった」
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