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コロは、なにも答えない。答えられないほど、発作が苦しいのかもしれない。けれど、まだそこにいてくれる。僕の話を、黙って聞いてくれている。
「運転手さんは、猫を避けようとしてとっさにハンドルを切ってしまったんだって。『一生かけて償います』って、泣きながら土下座をしたその人を、お母さんは許した。僕だって、運転手さんが本当に優しい人なんだってことはわかったよ。でも、でも、やっぱりおかしいよ。なんで春花だったの? 僕だって猫のことは大好きだけど、助けようとした運転手さんの判断は間違ってなかったと思うけど、でも、でもさ」
そこまで一息に言い切ってから、ぐっと下唇をかむ。右肩が急に重くなったような気がして、これ以上の言葉を出すことをためらってしまう。でも、それは逃げだ。僕はもう、逃げたくない。
「春花を殺すくらいなら、猫を殺してほしかった」
そんなひどいことを考えてしまう自分のことが、僕はずっと大嫌いだった。
僕の言葉を理解しているのか、していないのか。猫又が優しく体をこすりつけてくる。その温もりに、どうしようもなく胸が痛んだ。
「春花が死ぬくらいなら、僕が死ねばよかったんだ」
ずっとずっと言ってしまいたかったけど、誰にも言えなかった。なんでも話をするお母さんにも――お母さんにだけは、絶対に言えなかった。
「……だからヒノモトでのアンタは、女の子になってるのか」
コロに言われて、ようやく気づく。いや、本当はもうずっと前から気づいていたのかもしれない。
どうして自分が女の子になっているのか。自分が本当に心から望んだ姿が、どうして自分にそっくりだったのか。
「アンタは女の子になりたかったんじゃなくて、春花に生きててほしかったんだな」
どうしても認められなかった答えを、コロが形にしてくれた。
一度ぎゅっと強く目を閉じ、大きく息を吸い込んでから、僕はうなずく。
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