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「……そうだよ。そうだよ、だって、絶対に春花のほうが助かるべきだった。立ち尽くして動けなくなってしまった弱虫の僕なんかじゃなくて、あんな場面でもとっさに誰かをかばえる強くて優しい春花が生き残るべきだった。いつも明るくて誰からも好かれる人気者だった春花じゃなくて、どうしようもない僕が死んでしまえばよかった」  滝のように、言葉があふれて止まらない。三年前のあの日から止まっていた時間が、ようやく動き出したかのように。 「春花なら、僕が死んだって前を向いて生きていける。僕みたいに、いつまでも車を怖がって通学路を遠回りしてお母さんを困らせたりしない。猫にだって、ちゃんと優しくできる。雨の日だって笑っていられる」  春花なら。  春花なら。  僕じゃなくて、春花だったら。 「俺は、アンタが好きだよ」  ――雷に、打たれた。  呼吸が止まる。心臓が止まる。僕の体の中から、音が消える。  やがて、全身に新しい血液が、ゆっくりゆっくりと流れていく。  いつの間にか俯いていた顔が、ゆっくりゆっくりと上がっていく。  僕に雷を落とした雷神は、恐ろしい鬼の面の下で、穏やかに笑っていた。 「泉に飛び込んで鬼を回復したり、橋の上から鬼もろとも飛び降りたり、わざわざレインボーのカッパを探しに来たりするハルキとかいうおかしな奴に会えて――俺は楽しいよ」  どれもこれも、春花っぽくない。春花だったら、きっともっとスマートにしてしまうから。  でも、ぜんぜん上手にできない僕のことを、コロは受け止めてくれる。それでいいのだと、言ってくれている。 「アンタは何も悪くないんだよ、夏樹」  暖かい日差しにも似た熱が、じわりと胸に沁み込んできた。硬くて冷たくて石のようになってしまっていた後悔を、柔らかく溶かしてくれる。それはやがて水に変わり、いつの間にか僕の頬を流れ落ちていった。  ああ、知らなかった。ヒノモトでは、ちゃんと泣くこともできるんだ。春花がいなくなったあの日、一緒に死んでしまったと思っていた涙は、まだこんなにたくさん生まれてくるんだ。  ――僕はずっとずっと、この言葉が欲しかったんだ。
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