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「さて、じゃあ最終戦いってみるか」
「え!? ログアウトしないの!?」
「なんで?」
「なんでって……バイタルアラーム鳴ってるんだから当たり前じゃん!」
「鳴ってる? いつ?」
「は? え?」
慌ててコロの近くで耳を澄ませても、たしかにあの心臓に悪いアラーム音は聞こえてこない。ということは、ということは?
「ぼ、僕をだましたのっ? あの苦しそうな様子は演技だったってこと?」
「俺の職業、覚えてるか? まあ、そうすればハルキが来てくれるかなと思ったのはたしかだけど」
鬼の面をつけた歌舞伎役者は、そう言って悪びれた様子もなく笑った。対する僕はといえば、その場にへたり込みそうになるくらい一気に脱力してしまう。
「……もおおおお、本当に心配したのに! 小学生みたいな悪ふざけするんじゃないの!」
「だって小学生だもん」
「こんなときばっかり子どもを主張する!」
「あ、いくらでも怒られるけどサイテーは禁止な。ちょっとだけ傷つく」
コロに言われて、はっと息を飲んだ。火車戦前の自分の言動と、ここに来た目的を思い出す。
「……ごめんね、コロ。僕、君にひどいこと言っちゃった」
「うん、俺も。ごめんなさい」
お互いが謝ってしまえば、あとは二人で笑い合うだけ。仲直りの気配を感じたのか、猫又がかわいらしい声で「にゃあ」と鳴いた。
「よし、じゃあ続けるぞ。さすがに火車も待ちくたびれてるだろ」
沈黙を続ける火車をにらんだまま、コロが自分の袖の中に手を突っ込む。アイテムを取り出すモーションだ。メニューウインドウで目的のものを確認しながら、なにやらうれしそうに笑っている。
「はー、火車用にイベントのミニゲームで集めまくってたアイテムがようやく使えるぜ。出し惜しみは、なしだ」
そう言うと、僕にはわからないアイテムを立て続けに使用した。
体力増加。
攻撃力増加。
防御力増加。
移動速度上昇。
いわゆる《バフ》と呼ばれる、ステータスを補強する効果が、これでもかというほど重ねられていく。戦闘で有利になることは間違いないけど、短い時間制限があるので注意が必要だ。
「これだけ積んでも、俺のレベルじゃきっついな。ハルキ、適当に回復よろしく」
「任せて!」
それが僕の仕事。僕なりの戦い方だ。力強くうなずく僕を見て、コロがふっと小さく笑った。
「いくぞ」
石像のように動かなかった火車が、コロの戦闘の意思を確認して長い髪を振り回す。体にまとっていた蒸気を一気に放出させると、僕をさんざん苦しめた車輪のエフェクトがすべて消え去った。おおおおおん、という身の毛もよだつような咆哮が、インターバル終了の合図。
――さあ、ラストバトルだ。
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