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「あと少し……!」
突然、火車の動きが止まった。まるで電池の切れたオモチャのように、ゆっくりとうなだれていく。六本の腕も力を失って垂れ下がり、ずっと隠れていて見えなかった大きな車輪の姿が完全にさらけ出された。
あまりにも無防備な体勢。これを罠と受け止めればいいのか、チャンスと考えればいいのか僕にはわからない。けれど、コロは後者だと判断したらしい。とどめを刺すために、火車の頭上へと高く高く飛び上がった。術技を繰り出そうと構えた、そのとき。
それを待っていましたと言わんばかりに、火車が嬉々として顔を上げた。裂けるほど大きく開いた口の奥には、真っ赤な光――!
「!」
細く螺旋を描いたレーザービームのような炎が、至近距離にいたコロに直撃した。小さな爆発が起こり、真っ白な煙で辺りがなにも見えなくなる。
いままでに見たことのない攻撃。どれほどの威力があるのか、想像もできない。まさか、死んでしまったんじゃ……!
頭ではコロの無事を体力ゲージで確認しようと思っていても、目が勝手にコロの姿を探し続けてしまう。すると、最後にコロを見た場所にかかっていた煙が、内側から大きく穴を開けるように霧散した。
「コロ!」
中から飛び出してきたのは、もちろんコロだ。よかった、無事だ。でも、なにか様子がおかしい。
「え!? キングメロンカッパン!?」
そう。コロはなぜか、キングメロンカッパンの形をした薄緑色の半透明な風船の中にいた。お祭りの屋台で売られているような愛らしいフォルムを見て、僕は思わずほっこりしてしまう。けれど、もちろんそんな場合じゃない。コロの表情はいたって真剣そのもので、火車はそんなコロに向けて大きな車輪をギラギラと輝かせている。新しい攻撃が来る!
「――歌舞伎流十八番奥義」
キングメロンカッパンが幻のように消えて、コロが剥き出しになる。そのまま中空を漂いながら、高々と片手を掲げた。なにかを掴むように握られたコロの手の中へと、まばゆい光が集まっていく。コロの身長の倍ほどの長さへと育ったそれは、やがて稲光を具現化したような形を取りはじめた。
バクバクと心臓が早鐘を打つ。僕も見るのは初めてだ。歌舞伎役者の使用する奥義。これが火車へのとどめの一撃だと確信したコロの、最大にして最強の大技!
「《雷神不動》――!」
電流をまとったジグザクの大刀を、コロが渾身の力で振り下ろした。車輪から火炎の渦を噴出させた火車の最後の抵抗にも、コロはまったく動じない。火車の大きな頭も、固い胴体も、回る車輪も、激しい炎さえも――すべてまとめて、轟音とともに斬り裂いた。
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