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「やった……!」  無数の光の粒子に変わった火車の巨体が、端から溶けるように消失する。おおおおおおんという、どこか悲しげな泣き声だけを残して、今度こそ跡形もなく消え去った。  パーティの勝利を表示するウインドウが目の前に出現したことを確認すると、僕は急いでコロに駆け寄る。 「やったやった! すごいよ、コロ! カッコよかった!」 「トーゼンだろ。ハルキもお疲れさん。あ、お前もな」 「にゃうん!」 「そうだ、コロ。あのキングメロンカッパンは、なんだったの?」 「あれはキングメロンカッパンを倒したときにドロップしたアイテムを使ったんだよ。《水の主の加護》ってやつ」 「それって、火属性の攻撃を一度だけ無効化してくれるアイテムだよね。……ああ、だからコロは無事だったんだ」  つまりキングメロンカッパンがコロの命を救ってくれたのだ。今度からメロンパンを食べるときはちゃんと感謝しないと。僕がおかしな決意を固めている横で「そろそろかな」とコロが呟く。すると暗い洞窟だったフィールドが、一瞬にして何百本もの桜が咲く青空の下へと姿を変えた。  白く輝く花びらが、どこからともなく吹いてきた優しい風に乗って宙を舞っている。まさに桜吹雪と呼ぶにふさわしい、夢のように美しい光景だ。きっと、これもボス戦終了時の粋な演出なんだろう。言葉もなく見入っている僕の耳に「やっぱ運がいいなあ、俺は」というコロのうれしそうな声が届く。 「なに?」  ふわり。空気のように軽い布のようなものが、無造作に肩の上にかけられた。すっぽりと埋もれてしまった猫又が「みゃ」と鳴きながら顔を出す。 「《桜花(おうか)千早(ちはや)》――巫女専用の装備品。火車のレアアイテムだ」  千早とは、巫女さんが小袖の上に羽織る白絹の衣装のことだ。鶴や亀などの模様が入っていることが多いけど、火車からドロップした千早には桜が刻まれている。まるで目の前に広がる光景を、そのまま写し取ったかのように。 「……俺、ずっと思ってたんだけどさ」 「うん?」  首をかしげて、向かい合ったままのコロを見上げる。彼は満開の桜を眺めるように視線をさまよわせてから、やがて大真面目に言った。 「ハルキって、すげーかわいいよな」  ぶっ、と。思わず吹き出してしまう。「笑うなよ」と怒られたけど、おかしかったんだから仕方ない。  容姿について触れられるのは、ずっと嫌だった。どうしても春花のことを思い出してしまうから。  でも、今は違う。もう、だいじょうぶ。  だから、笑いながら、こう答えられる。 「僕の自慢のお姉ちゃんだもん」  ――ありがとう。  それが春花の、最期の言葉。  僕は桜の舞う青い空に向かって、春花と同じ顔で、春花と同じ声で、春花と同じ言葉を返した。
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