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「メイくん、遅いな。……迷ってるのかな?」  そういうわけで、この街で迷子になるアバターも多い。特にきょうは新イベントの開催初日だ。ふだんは物怪討伐であちこち飛び回っていて街にはいない、メイくんみたいな人たちまで集結している。さながら、芋を洗うような大盛況ぶりだ。  わかりやすい場所だからということで、火ノ都の中心を横に分断する大きな川の大きな石橋の上で待ち合わせをしているけど、考えることはみんな同じだったのかもしれない。橋を通過する人よりも、誰かを探して橋にとどまる人のほうが多いような気がする。 「よし、フレンドリストで確認してみよう」  その思いつきを実行するには、まず先にメニューウインドウというものを表示しなければいけない。メニューウインドウでは、ヒノモトで行う基本的な行動――たとえば、武器の装備や所持アイテムの管理、請け負っている討伐任務の確認などができる。基本中の基本なので、チュートリアルでもみっちり勉強させられたっけ。  今も視界の隅に固定表示されているステータスウインドウと違って、メニューウインドウは呼び出さなければ出てこない。といっても、操作は簡単。目の前の空間に向けて意識を集中させれば、あら不思議。そこには、ステータスウインドウと同じデザインながら、逆に形は横長というメニューウインドウが一瞬で浮かび上がってきた。人類の技術の進化って、本当にすごい。  早速、フレンドリストを開いて、メイくんの動向を確認する。ヒノモトでのたったひとりの友達は、どうやらログインはしているようだった。「今どこ?」と、テキストチャットを飛ばそうとしたところで「お待たせ」というセリフが頭の上から降ってくる。  当然ながら現実のメイくんの声質と、ヒノモトでのメイくんの声質は少し違う。まだそれに慣れてないため、声を聞いただけではメイくんという確証が持てないけど、そもそも僕に当たり前のように話しかけてくる相手の心当たりなんて、ひとつしかないわけで。 「あ、よかった。メイく、んん!? どうしたの、それ!」  
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