『恩返し』の相手、タクムくん

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『恩返し』の相手、タクムくん

 ついに、ついに来たんだ。『恩返し』の相手に会えるその日が!  なのに。なのに……っ! 「どうして、初日から遅刻しちゃうのおおおおぉぉぉっ」  狐塚小春(こづかこはる)、一生の不覚。  朝目覚めた時、目覚まし時計のスイッチを入れ忘れていたことに気付いた。  おかげさまで、今日は、遅刻確定。 「妖術を使っても、間に合わないかなぁ……」  妖術、風走り。風のように速く走ることのできる術。  術がうまい人なら、いつでも何時間でも速く走ることができる。  だけどあたしは、十分くらいしか使えない。 「しかも、一度止まったら三十分は使えないって、ほんとだめだめじゃん」  妖力が使える人たちが通う小学校では、散々バカにされたっけ。 『お前、妖狐の先祖返りのくせに弱すぎだろ』   先祖返りっていうのは、その名の通り、先祖の力を受け継ぐこと。  あたしのおじいちゃんは、妖狐だった。  妖狐っていうのは、妖力っていう魔法が使える狐のこと。  あたしとお兄ちゃんは、その力を継いでる。だけど……。  あたしは他の先祖返りの人たちより、妖力をうまく使えない。  使える妖術はあっても、効果が十分くらいしか続かない。  それに使える妖術も、すっごく少ない。でもあたしには、目標がある。  それは、『恩返し』をする相手を幸せにすること!  『恩返し』っていうのは、先祖返りの人や妖の人たちが交わす、約束みたいなもの。  『恩返し』をする相手は、一人しか選べない。あたしはもう、決まってる。  阿川拓夢(あがわたくむ)。それが、『恩返し』をする相手の名前なんだ。
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